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新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2002.02.01◎諸君
小泉デフレに亀、吠える(対談:早坂茂三氏)
「緊急経済対策をやるなら支持する」
小泉政権誕生の立役者が、
「男の約束はどうなった!」


?劣等生が東大に入るまで?


早坂 絵心をお持ちだとは聞いていたけど、事務所にこれだけキャンパスが並んでいるんだね。(描きかけの裸婦像を見て)ほぉ、こういう絵も描くんだ。達者じゃないの。


亀井 いやあ、難しいね。やっぱり裸婦は描くもんじゃなくて抱くもんですよ(笑)。


早坂 ハハハハ。元気でいいね、ここは亀さんと呼ばせてもらうけど、だいぶ前から「ドン亀」、「泥亀」と、まあ、親しみを込めて呼ばれている。この綽名はいつ頃から付いたのかな。自分じゃ不服ですか。


亀井 昔から、親しい友達は「やぁいドン亀ぇ」とか言ってましたからね。もう気にも止めません。


早坂 綽名といえば、四月の総裁選の時、小泉の応援団長だった姫様に、「亀井ちっとも静かでない静香」なんて言われていたなあ。


亀井 本当は静かなんですけどね(笑)。


早坂 よく言うよ(笑)。牝虎御前の指摘は、あなたの物言いがはっきりしているせいでしょう。僕が舌を巻くのは、比喩、喩えが抜群にうまい。だから語り口がとてもわかりやすい。政治家の欠かせない条件だ。これは生得の才能なのかな。それとも、バッジをつけるようになってから、いつかは大将になろう。そんな算盤勘定で身につけたものですか。


亀井 いやいや、私は怠け者なんですよ。こういう職業なのに、ペンと手帳を持ったことがない。


早坂 へえ。これは驚いた。


亀井 いやいや、ただの怠け者。だから、修辞術を意識的に勉強したなんてことはありませんよ。大学時代も体育以外の授業にほとんど出てませんでした。ノンフィクション作家の柳田邦男も同じクラスで、彼も出なかった。同窓会に出ると、クラスメートが嘆くんですよ。みんな真面目に勉強して一流企業に入ったのに、今や哀れ窓際族だ。そのくせ授業には出てこないで、コンパの時だけやって来て騒いでいた亀井と柳田が有名人になるなんて、世の中おかしいって。


早坂 よくある話だ(笑)。


亀井 第二外国語はドイツ語だったんですけどね、der des dem den という定冠詞の活用くらいしか分からない。試験問題はたいがい独文和訳ですから、和訳の方を覚えていってね、何段落目だから大体この辺だとこういうふうに見当をつけてやってたんです。先生も、「亀井クン、書きなさい。頼むから書いてくれ」って......(笑)。不可をつけて落第させても見込みがないから、とにかく書かせて、最低の可をつけて進級させてしまった(笑)。


早坂 あなたは広島県庄原の出身だけど、お父さんは何をやっておられたの。


亀井 敗戦前は、村の助役をしていました。四反三畝しか田んぼはないし、山も持っていないから、財産は村で下から数えた方が早いほどなんですが、家柄がまあ良かった。


早坂 平家の落人か(笑)。あそこは山奥だし......。


亀井 そうじゃないんですけど、私、亀井久興と先祖が一緒なんです。


早坂 衆院議員の?かれは津和野の殿様だろう。


亀井 私の先祖に、亀井吉助と新十郎という尼子家に使える兄弟がいたんです。吉助は毛頭家老だったんですが、尼子が毛利に滅ぼされてた後、二君に仕えずというので帰農したんです。それで、徳川300年の間は辺り一面は大体うちの土地で名字帯刀も許されていたんですが、幕末頃ごろに私のひいじいさんが武芸に狂っちゃって、道場を建てたり武芸者を集めたりで全財産パアにしちゃった。弟の新十郎のほうは槍の名手で秀吉の槍術指南番になって、加藤清正が挑戦征伐のときに生け捕った虎を、京の町で引きずり回したりしました。それで、関ヶ原の合戦もうまく切り抜けて、津和野の殿様になっちゃった。それがあっちは初め参議院で、私は衆議院でしょう。400年かかって引っ越したんです(笑)。彼とは仲良しですけどね。で、彼も負けるものかということで、衆議院に鞍替えました。そこで去年、私が政調会長だったときに、職権を使って彼を政調会長代理にした。つまり主従関係にしたわけです(笑)。


早坂 積年のナニをはらしたわけだ(笑)。


亀井 それで、親父は助役をやっていましたが、敗戦とともに辞めて、外地からの引揚者による開拓団の世話をしてました。そういうわけで家に金はない。ただ子供たちはみなまあまあ勉強ができたものだから、父親とおふくろが財産の代わりに教育を身につけさせてやろうと思い立ったんです。


早坂 親はありがたいねえ。それで日本はここまできた。


亀井 だから、子供たちが小学校を卒業すると全部町へ出した。ただ、三人まで出したところで手いっぱいになってしまって、親父が静香だけは手元に置いておこうと言ったら、おふくろが、何とか静香も出してやってくれと泣いて頼んだんです。私は向学心がまるでなかったんですけど(笑)。それで広島市内の修道中学に入って、兄弟で自炊生活をしていたわけです、女学生だった姉が、母親代わりになって面倒を見てくれました。


早坂 「栴檀は双葉より芳し」というか、あなたの親分肌の性格を示すエピソードがあったのも、その学校のときかね。


亀井 中学からそのまま修道高校に進学した後です。学校側が、それまで通学定期を買うための証明書を無料で発行していたのに、手数料を取ると言い出した。だから私は、授業料を払っている以上タダで出すのは当たりまえだと、ガリ版でビラを作って配ったんです。そうしたら理事長が、アカい学生がいるといって、担任の先生にやめさせろと言った。先生が、「亀井くん、退学処分になったら傷かつくから、自分の方からやめた方がいい」っていうから、こんな学校にいられるかと自主退学して上京したんです。


早坂 それ、いつ頃の話?


亀井 高一の三学期。それから東京で日比谷高校をはじめ何校も編入試験を受けたんですけど、全戦全敗(笑)。なんせ遊んでばかりいたものだから、修道での成績は360数名中330番ぐらいだったんですよ。自慢じゃないが試験はできないし、加えて加えてまた修道がサービスしてくれないもんだから、内申書には正直にその順位が書いてあった(笑)。最後に都立大泉高校が残って、面接があったんです。校長先生が、「亀井君、名前しか書いてないな、だめじゃないか。どうするんだ」って訊くから、「もう受けるところがありません」と言った(笑)。それで「心を入れ替えて勉強するか」と言われたので、「はいっ、勉強します!」って答えて、入れてもらったんです。


早坂 ほぅ......。ふところの深い校長さんだなぁ。


亀井 私は、運輸大臣になったときに、練馬の校長先生の家を訪ねて、「お陰様でこのたび大臣になりました」とお線香をあげましたよ。


早坂 いい話だね。


亀井 それで、都立大泉高校に二年生から編入しましたが、相変わらず勉強はできない。転校生だというのでよく当てられるんですが、全く答えられないんですよ(笑)。 あの高校は、元は女学校だったもので、当時としては女の子が結構いるわけですが、その女の子たちが馬鹿にしてキャアキャア笑うわけ。こっちも色気づいている年頃だから恥ずかしくなって、一念発起した。中学三年と高校一年の教科書を買ってきて、自分でやり直したんです、なんとか落ちこぼれることなく東大に入ったのはそのお陰ですよ。修道にあのままおったら、多分ろくな大学に行けなかったと思いますね。
 東大に入って、帰省のついでにちょっと修道に寄ってみたことがあるんですよ。顔見知りの先生に、「亀井君か、今は何しとるんじゃ」と訊かれたから、東大に行ってますと言ったら冗談言うなよと怒られました(笑)。


早坂 「ドン亀」が「俊才亀」になって帰ってくるなんて、誰も思ってなかったんだ。先生の顔が目に浮かぶねぇ(笑)。その東大でも、友達が水爆実験反対のデモに出て退学になったことに抗議して、ハンストしたんだって。


亀井 私は左でも何でもなかったんだけど、駒場寮で一緒の奴がデモを先導したという理由で退学になったものですから、旧一高以来の伝統なんて言うてる駒場が、それぐらいで退学にするとは何事か、と駒寮前にテントを張って、一週間やりましたよ。友達が、テントの中にパンを投げ込んでくれるんですけど、私も依怙地ですから水と塩だけで通してふらふらになりました。一週間でドクターストップがかかりましたが、退学は取り消しになったんです。


早坂 駒場では、寮祭のときに、犬を殺して焼鳥だと称して打って、ずいぶん儲けたという伝説があるね。


亀井 いや、実際何の肉かよくわからんのですよ。模擬店を出すことになって、女子学生が肉を串に刺すところから全部手伝ってくれていたから。ただ、「羊頭を掲げて狗肉を売る」という看板を掲げたものだから、マスコミが「片っ端から犬を殺して叩き売った」なんていって、だいぶ叩かれましたよ。


?機動隊があんまり弱いから、入ってやろうと?


早坂 亀さんは東大の経済を出てから一時サラリーマンをやったんだね、ちっとも知らなかった。


亀井 1年間やりました。


早坂 それがまたなんでお巡りさんに転身したの。


亀井 もともと官僚になる気はなくて、民間へ就職しようと思ってましたから、経済学部を選びました。ところが合気道に夢中になってしまって、あと仕送りがないものだからアルバイトをしなきゃいけないので、この二つに明け暮れていたわけです。その結果というか、さっきも言ったように怠け者で授業に出ないものだから、成績は悪かった。経済学部時代の成績表は見事にオール「可」ですよ(笑)。就職活動をしたのは昭和34年で、就職難じゃなかったのに、大企業は全部落ちてしまったんです。


早坂 僕も早稲田の学生時代、共産党だったから、大手新聞すべてに玄関払いされたよ。


亀井 そうしたら次に中小の企業が求職に来まして、府化学工業という会社、今の住友精化ですが、そこの常務が東大の先輩で、「うちに来ないか」と声をかけてくれたもので、入りました。小さな会社だけに居心地はよかったですよ。
 しかし、その年に、ちょうど60年安保があって、デモ隊が国会に乱入したんです。テレビ見ていると機動隊があんまり弱いものだから、よしッこれは俺が入ってやると思ったんです。ちょっと短絡的だな(笑)。


早坂 あのとき、僕は貧乏新聞社で社会党を持っていた。流血の騒ぎを一部始終現場で目撃したけど、機動隊は乱暴だったよ。棍棒で学生たちの頭をボカボカ殴りつけてね。弱いなんていうシロモノじゃなかった。亀さんの事実誤認じゃないの(笑)。


亀井 いや、そう見えたんですよ。それで会社を三月に辞めまして、私は経済学部だから憲法も行政法も刑法も全く知らないので、その本を買い込んで、本郷キャンパスの七徳堂という武道場で、ミカン箱を机代わりに独学で法律の勉強を始めたんです。最初は失業保険で飯を食おうと考えたんですよ。ところが、飯田橋の職安で、一回だけは貰えたんですけど、敵もさるもの、二回目に行ったら「求職ノ意志ナシ」と見破られちゃいましてね(笑)。しょうがないからアルバイトをしながら、懸命に勉強しました。それで、当時は警察上級試験と国家公務員上級試験が分かれていて、まず小手調べのつもりで国家公務員上級を受けたら、3番にはいってたんですよ。


早坂 やっぱり、頭のデキが違うんだ。にくい男だな(笑)。


亀井 自分でも腰ぬかしちゃってね。そうすると、あちこちの省庁から、うちに来てくれと勧誘がある。兄貴も「警察だけが人生じゃないゾ」なんて言うから、兄貴の友達がいる通産省へ面接にいったわけです。そうしたら官房長官が、「亀井君、君は1年で民間をやめているけどね、浮気な性格かねぇ」なんて言うからムッとなって、「人の人生に勝手にレッテルを貼るな」と官房長官を怒鳴りあげて帰ってしまった(笑)。ところがその官房長官も話が分かるやつで、ぜひ採りたいと口説かれたんですが、警察上級試験の方も7番で受かったものだから、そちらへ入ったんです。


?小泉さんが男の約束を果たしてくれたら......?


早坂 その警察に15年もいて、浅間山荘事件の時なんか、ドンパチの最前線で将校斥候よろしく走り回っていたそうだね。埼玉県警の課長時代、担当記者たちに名刺を渡し、「飲み屋でこれを出すと、ツケがきくぞ」なんて善政をほどこしたらしいな(笑)。代議士の初当選は昭和54年。それがもう連続当選8回で、自民党の名物男になった、若いころ、国家基本問題同志会なんか作って、えらく右寄りの政策に大声を出してたね。僕が注意したら、「目立たんとえらくなれんから......」と笑ってさ。その後、いくらか静かになって、出世段階を駆け足で上がってきた。運輸大臣に建設大臣。ついこの間までは、森内閣の政調会長で政権の屋台骨を支えて、花があった。本当に。森さんはあなたを信頼しきって、政策も全部、丸投げだったしね。
 それが今は浪人暮らしで脾肉の嘆をかこってる。日本は不景気のどん底だ、あなたは小泉を新月光仮面とおだてて、財政総出動の景気回復策の進言してるけど、ご本尊は聞く耳がない。80%の高支持率を頼みの綱にして、「改革なくして成長なし」のワンフレーズ・ポリティクスを繰り返すだけだ。経済がダメというけど、本当は政治がダメなんじゃないの。


亀井 4月の総裁選のとき、本選の前に私が龍ちゃんをといったら500%橋本さんが当選したはずです。ただ、参議院選挙を控えている時期でもあるし、予備選挙で示された全国の党員の意志を、本選でひっくり返すわけに行かないと思っておったわけです。そこへ、小泉さんからぜひ協力してくれといってきたので、私とあなたは考え方が違うけれども、あれだけの党員が支持したわけだから、私のやりたいと思っていることを少しでもやってくれるというのであれば、支持に回ってもいいといって、午前2時までかかって政策協定を結びました。その中では、特に緊急経済対策の速やかな実施を求めたんです。


早坂 そうだったね。あれをやれば様子が違っていた。


亀井 小泉さんが、この男と男の約束を果たしてくれさえすれば、日本経済は最悪の状況にはならずにすむだろうと思っていましたが、残念ながら半年以上やる気配がない。むしろ逆コースを行ってるみたいだ。今の私の立場としては、とにかくあれをやってくれと強く迫るほかないんですが。


早坂 しかし、彼は総裁選挙の直前、あなたと「男と男の約束」をする一方で、日本経済はマイナス成長でいいんだとか、自民党はぶっ潰しても構わない、民主党と大連立を組むんだとか、別の席で平然といってたぞ。


亀井 それが事実なら、党員の意志を尊重したいという、こちらの気持ちの乗じられた気がしないでもない。ただ、小泉さんとは20何年間の付き合いですけど、手練手管で人を操ったりするような方じゃないと思っています。
 今の日本は、「小泉サーカス」の小屋の前で、純ちゃんが呼び込みをしていて、お客がどんどん中に入って、開演をいまや遅しと待っている状況なんだと思います。肝心の出し物といえば、雌の珍獣が一匹おるだけですから、お客は満足しないんですが、小泉さんがこの後どういう出し物を考えているのか、またその出し物は実際にできるのか、全く分からない。


早坂 小泉は改革の中身を充分に練り上げず、亀さんとの約束も忘れて、天空に舞い上がったポピュリストじゃないか。政策の優先順位もなく、こつこつ法制化する手足もない。


亀井 地方を廻って、中小企業の方々にお会いするでしょう。すると、「亀井さん、もう次はお会いできないかもしれません」と言うんですよ。「今日はなんとか来たけれど、もう仕事がないから、次にいらっしゃるときには分からない」と。それも1人や2人じゃないんですよ。
 勘繰りかもしれませんが、いま私が心配しているのは、小泉さんが確信犯で景気を悪くしてるんじゃないかということです。景気を良くすれば、倒れかけている企業が気を吹き返してしまうけれど、景気が悪くなるのに任せておけば、弱い企業は潰れていって、強い企業だけが残っていく。それで日本経済を再生しようとしているんじゃないかと思うんです。


早坂 それはアングロサクソンの発想だね。強者の一人勝ちで、あとは死屍累々。アダム・スミスのレッセフェールだ。いま必要なのは、血も涙もある日本型のケインジアンだろうに。


亀井 喩えて言えば、弱い木はもう間伐して、強い気だけで元気な森を作ろうという考えです。ところが、現実にやっているのは森全体を枯らす政策ですから、これでは強い木だって生き残れるかどうか。
 そうした枯葉作戦をやった結果、かつて100億円ぐらいした土地が今は10億以下ですよ。ところが、それでも日本の企業は手を出さないんですね。出す元気もないか、不動産というだけで常務会で「ノー」が出る。どんな安い出物があっても日本企業は手を出さないから、外資がどんどん安値で買っていますよ。日本は自由主義経済ですから、外資を批判してもしょうがないわけですが、問題はこの状況が続いた場合、民族資本がなくなってしまうということです。
 イギリスでは、サッチャーの大改革によってシティの金融街が甦ったじゃないかと、小泉さんも言っておられるけども、現実は、アメリカ資本やドイツ資本に乗っ取られて、イギリス人は雇われているだけです。彼らは同じアングロサクソンだから、親戚に身売りするようなものなのかもしれないけど、1400兆円という世界に冠たる金融資産と、3000億ドル以上の外貨準備高を持っている日本民族が、何でアングロサクソンに身売りをせにゃいかんのか。


早坂 世間をあまり知らない裕福な坊ちゃん学者が大臣になって、馬鹿の一つ覚えみたいに「改革には痛みが伴う」と繰り返しているけど、土地はまだ「下げ」の先が見えなでしょう。そうすると、不良債権の破綻懸念先が次々とお手上げになって、その予備軍が門の外に「ごめん下さい」といってあふれている。買い漁る外資は笑いが止まらない。
 株も、外資にすっかり鼻面を引きずり回されている。年明け2、3月には、下手をすれば8000円台に突っ込んで、日本経済の樽の底が抜けるかもしれない。失業率は5.4%なんて役人がいってるけど、実体はもう6か7、大阪なんて8%になったというよ。


亀井 おっしゃるように、もう日本経済は潰れようとしています。この秋の臨時国会で、痛みについてはちゃんと手当をしようということで、失業保険その他を強化することにしましたが、失業保険すなわち国民の税金で3年も4年も養うわけにはいかないでしょう。


早坂 職業訓練するって言うけれど、結局40代、50代はハローワークに行っても、けんもほろろの扱いだし。


亀井 失業率を減らすには、ニュービジネスが生まれてくれるのが一番いいけども、経済が縮小再生産の過程に入っているのに、そんなもの出てくるわけがない。IT産業だって、製造業に付随しているものだから、製造業自体が活発にならないことにはどうしようもない。
 あと不良債権といいましても、本来「不良」債権なんてないんですよ。借りる方だって返すつもりで借りるわけだし、貸し付ける方も返してもらうつもりです。ところが不況で予定通り返せなくなって、地価も下がって担保の役をはたさなくなる、それで不良債権化したわけです。しかも橋本さんの時に、やってはいかん財政再建路線をとったせいで、推定40兆くらいだった不良債権が100兆近くに増えた。だから、これを処理するといっても、まずは景気を良くして、資産価値が上がってくる、それによって返済能力が出てくるという状況を作り出さなければ、税金をいくら注ぎ込んだって、ドブに捨てることになると思います。


早坂 しかもそれに追い討ちをかけようとしているのが小泉だ。ペイオフ凍結解除を2002年4月に断固、実施しようとしている。全国の信用組合や信用金庫、第二地銀から、もう資金の引き上げが始まっているよ。3200余りの自治体が浮き足立ってね。


亀井 最近、私の女房のところに、地方の奥さん方から電話がひっきりなしにかかってきて、どの銀行に預け換えればいいかということばかり訊かれるんですよ。国民は不安を抱いているのに、小泉さんはあくまで実施する方針だし、実は党内の先生方も事の重大さに気づいていない。ちょうど2年前、ペイオフ解禁の延期を決めたときも、党内の9割がたは予定通りの実施するほうに賛成でしたよ。結局、私が政調会長の職権で延期を決めてしまったんですが。


早坂 あれでよかった。亀さんも袋叩ききにされたけど、よく頑張ったね。しかし、今回は待ったなしの正念場だ。自民党も再延期で腹をくくらなくちゃなあ。


亀井 あのときは、一度決めた期日を変えるのはけしからんということと、改革にブレーキがかかるということで叩かれたわけです。ところが、「改革」という言葉の実態は、弱小金融機関か整理されて、強い金融機関だけが残るということでしょう。今度も、2002年4月に予定通り実施するのが国際公約だといったって、実施したら金が回らなくなって、もう資本主義じゃない、原始経済になってしまいますよ。


早坂 いま金は溢れているけれども、使おうとするやつがいないから、借り手がいない。デフレの先が見えないし、大企業や中堅どころが、人件費30分の1の中国のどんどん逃げ出して、ドーナツの穴がふくらむばかりだ。逆に、金融機関は肝心なところには貸さない。


亀井 全然貸しませんよ。ところがいくら言っても、財務体質を強化する必要があるから貸す余地がない、なんてことばかり言ってる。
 結局「改革」というのは、大動脈を残せばいいという発想だけども、日本経済という肉体は、信用金庫、信用組合、第二地銀といった毛細血管が肉と絡み合ってできているわけです。ところが毛細血管を切っちゃった後で、東京三菱や三井住友のような大動脈が、中小企業に対して金を貸すか、といったら貸さないわけです。
 とにかく、いま日本は大変な事態に突っ込みかけています。ところが国民が、もっと苦しめてくれ、もっと苦しめてくれと一生懸命支持している。この状況を、一体どう抜け出すかは、難しい問題ですねえ。


早坂 マスコミは大衆迎合の総本山だから、小泉人気に水がさせない。いまは調整インフレ対策が必要だ。財源は無利子非課税の国債10兆円を当てたらいい。日本にはアングラマネーが70兆円から100兆円はあるよ、無記名をインモラルというなら、記名式や相続人の順位を書いて発行すればすむ。民法の諸子均分相続制にふれるなら、民法を改正すればいいじゃないの。金持ち優遇とマスコミが騒ぐなら、あと10兆円も出して低所得者層や社会的弱者に目くばりすることだ。とにかく、一刻も早く小泉ボンドを発行して、世直しの尖兵に仕立てることでしょう。


亀井 政策の大転換が必要なんです。


早坂 180度の大転換がね。「1に景気、2に景気、100まで景気」でいって然るべし。だけど、今の小泉政権は国債は出さない。道路はつくらない。特殊法人は潰す。この一点張りだからね。これじゃあ経済が縮まって、倒産続出、税収がドンと減り、失業者が溢れるばかりです。地獄へ逆落としだ。政策転換する気配が全く見えない。


亀井 見えないですね。そう考えると、橋本さんはやはり偉かった。構造改革優先の過ちに気づいて大転換したんですから。


早坂 あの鼻っ柱の強いのが、間違いを認めたんだからね。


亀井 それでこそ政治家だと思います。だから小泉さんも、過ちを改むるに憚るべからず。転換したところで、誰も「約束が違う」などと批判はしないですよ。私も、政策の転換を小泉さんに迫っていきたいと思っています。
 景気対策のための財政出動をすると、国債を増発する以外に財源がないから、国債が売れなくて長期金利が上昇し国債の格付けも下がり、大変な事態になると主張する人がいますよね。しかし、それは真っ赤なウソです。世界に例のない貯蓄の高さは現在も変わらないし、民間に金が回らないでダブついてます。民間が使わないなら、国や自治体が使ってムダな公共事業を排しながら社会資本を整備すれば良い。
 この秋にも日銀が国債購入を増やす買いオペをやったけど未消化だったという現実が、それを如実に証明しています。国債の格付けは、国力の証明だから、今のように経済がドロ沼に嵌っていけば、国債の額と関係なく下がる危険性があります。財政健全化の指標は分母と分子の関係だから、分子の借金が増えずとも分母の国民所得が今のように減少していけばたいへんなことになってしまう。また、外国から借金するわけではないことを銘記すべきです。
 財政出動は十分可能なのに、小泉さんは「構造改革」に固執しています。しかし、その正体は日本型資本主義をアメリカ型資本主義に移行させることなんですよね。


早坂 その通り、小泉は、その確信犯だ。国家再建の戦略なしでね。


?日本型資本主義へ戻れ?


亀井 私は、資本主義というのはそれぞれの国によって全て違うし、それでいいと思います。


早坂 日本は相互扶助社会だもの。これがなくなったら、おしまいだ。


亀井 従業員だけでなく、下請け、取引先まで含めて家族のように大事にし、そのうえで利益を株主に配当する。そういう日本流の商売で、12、3年前には世界一の経済大国になったんです。ところがそれを、株主に対してきちんと配当するのが資本主義のあるべき姿で、従業員や下請けはそのための道具に過ぎないというアメリカ型に変えようとしている。


早坂 「グローバル・スタンダード」というと、何やら格好よく聞こえるけど、中身は、そこのけ、そこのけ、アメリカ様のお通りと一緒さ。


亀井 今までだって幾度となく不況はありましたよ。けれども、すくに首斬りをしなかったし、下請けも切り捨てなかった。しばらく給料か上がらないのはみんなで我慢して、景気が良くなったら、またみんなで儲けていたわけです。どうしても首切りせざるを得ないときには、自分の身を切るような思いをしてやったし、労働組合の方も出来る限りの抵抗をしていた。ところが今は、とにかく仕事がないとすぐに従業員の首を切る。


早坂 大根の首を切るようにやるからね。スパッと。


亀井 問題はですね、首切りを「リストラ」と称するようになって、これに抵抗するのは悪いことだという風潮が出てきたことなんです。今の経営者は、それをいいことにどんどん首を切って事業を縮小していく。昔の経営者でしたら、景気が悪くなって従業員が余ったら、各社の長い信用と暖簾でなんとか資金を集めて、それまで蓄積してきた技術力を生かしてニュービジネスへ乗り出そうという努力をすると思うんです。


早坂 経営者のモラルも地に墜ちたねぇ。今やすぐに吸収、統合、合併だ。血の小便を流してる中小企業の経営者は別だけど。


亀井 シュンペーターのいうような、「創造的破壊」を断行するには、よほど背骨の通った経営者でないとまずいんですよ。東レの前田勝之助会長なんか、「まず日本人を幸せにしないで、東レが儲かっても仕方がない」という理念を持っている。こういう経営者はほとんどいなくなってしまいました。


?司令塔不在の自民党政治?


早坂 終身雇用制や年功序列金が崩れちゃって、成果主義の給与システムが横行している。本当は前田さんの言うとおりなんだけどね。そこでパニック寸前の日本経済を救わなきゃならんのに、司令塔がいない。派閥のタガも緩み、下克上が蔓延して、自民党内のリーダーシップが衰弱してきた。司令塔を再構築する道筋を至急つけなければならん。小泉はファシスト呼ばわりされても平気だ。高支持率を笠に着てね。だけど、仲間は加藤紘一と山拓、それに塩じいさんくらいだろう。官房長官もげんなりしてるし、側近の安倍晋三も腰がふらついている。森派の大勢も亀さんと同じ現状認識、危機感を持っているよ。まあ、抵抗勢力の司令塔は青木幹さん、野中のおっさん、古賀前幹事長の3人組でしょう。これに森デブさんが一枚かんで、裏で小泉と通じ、道路問題なんかでも官邸に花を持たせ、実利を担保して、さっさと兵を引いた。だけど、ペイオフ実施が始まって、天下大乱、とりつけ騒ぎが始まるようだと世間が迷惑する。そうなる前に、政治の方で手を打って欲しいんだけどなあ。


亀井 小泉さんに思い切った政策転換をさせる、そういう力学を構築できない今の永田町は、恥ずかしいことに政治家としての責任を果たしてないと思います。ここはやはり、抵抗勢力と言われようと、小泉さんに翻意を迫らなければいけませんね。それも、オブラートで包むような形じゃなくて、鋭角的に行かなければ。


早坂 亀さんを攻め手の王将にしてね。しかし、3人組は苦労人の喧嘩上手だ。勝ち目のない戦いはやらんよ。経済の樽の底が抜けて支持率の急降下を確認するまでは、鬨の声をあげないんじゃないの。


亀井 しかし、それではミゼラブルです。国民があまりにかわいそうだ。今の社会には、日本は焼け野原になってから立ち上がればいい、それまではもう手の施しようがないという空気が蔓延しているでしょう。


早坂 僕もそう思うな。自民党内にも蔓延しているよ。みんな洞が峠を決め込んでいる。


亀井 けれども、小泉さんに拍手をしているのが国民だから、経済がいくら落ち込んでも国民のせいだというのは、政治家にとってエクスキューズになりません。


早坂 そうだね。亀さんの現状打破を目指した問題提起や主張は、鋭角的で迫力満点だが、好演惜しむらく無役だからねえ。傘針浪人とはいわんけど、一人で大声を上げても、熊の遠吠えになってしまうよなあ。小泉はビクともしないよ。あれは唯我独尊だから......。それに中曽根大勲位が後ろで咳払いしてるし、マスコミが「江藤・亀井派」と呼ぶ宮崎出身のじっちゃんもいる。この二人が頭の上にどんと乗っているから、気配りで疲れるわなあ。


亀井 おっしゃるとおり、私一人が叫んだところでしょうがない。だから、力学をどう構築して政策の大転換に持ち込むかですが、これは本当に苦しい。しかし諦めたらおしまいです。(壁に掛かったチェ・ゲバラの写真を指さして)あのゲバラだって、14、5人でゲリラ戦を戦い抜いたわけですから、われわれも、どん底にいく前に少しでも早く反転をする状況をつくらなければならんと思って、努力しております。


早坂 誰と組むの。頼もしい相手がいるかい。


亀井 党内は、中堅、若手を含めまして、危機意識はみな持っていますから。


早坂 誰だって選挙区へ帰れば経済がどんなに大変なことになっているか分かるからね。尻に火がついてる。


亀井 問題は、それをどういう形で力学に持っていくかということですが、派閥も別ですから、その思惑というか戦略がピタッと合わないと駄目です。今はまだ行けるという確信はありませんね。とはいえ、かつて自社さ政権を誕生させたときも、確信はなかったんですよ。
 あのとき社会党の右派は、みんな小沢さんの子分だったから、日の丸、君が代反対の左派と組んで引っ繰り返すしかなかった。そんな、誰が考えたって不可能なことに私は挑戦して、お蔭様で成功したんですけどね。


早坂 あれは見事だったね、戦後政治史の残る快挙だ。


亀井 最初から勝算があったわけじゃありません。ただあのときも、いよいよ不況が深刻化してきたときでした。結局のところ、下部構造が上部構造を作るんですよ。


早坂 マルクス爺さんのあのご託宣だけは今も正しいね。


亀井 ですから、小泉さんに政策を転換させるのも、決して不可能だとは思っていません。ただ、「小泉総裁」を支持してきた張本人としては、今より状況が悪化しているから小泉さんが袋叩きになってようやく変わる、というふうにはしたくないんです。だからそうなるまえにご決断いただく、その方向へどう持っていくかですよ。


早坂 このキャンバスに描いたピンクと、緑の色合いはとても優しくて、ハーモニィもいいね。だけど、亀さん、小泉はあなたとの“男の約束”を平然と破った。この宰相に惻隠の情を持っては景気回復の大仕事ができない。大義、親を滅す。これだよ。


亀井 私は優しいというよりか、ちょっと怠け者で優柔不断なところがありますけどね、政治家として個人的な欲というのはあまり考えない男なんです。


早坂 小泉をいかにして、みんなの声に耳を傾ける大将に変えさせるか。これは針の穴に通すより難しい。しかし、亀さん、時計の音はチクタク、チクタクと鳴っているよ。間に合うかなあ。


亀井 私は諦めません。諦めるくらいなら政治家やめますから。


早坂 まぁ、まぁ、そう短腹なことは言わないで(笑)。

※無断転載を禁ず


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