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新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2003.3◎諸君
デフレの冬はオロオロ歩けというのか
小泉よ、自殺者3万人! 恥かしくないか!

[聞き手] 濤川栄太 新・松下村塾塾長


自信を喪失した日本人には国家目標が必要だ
今こそ明治維新、敗戦直後につぐ大改革を!


濤川 いま日本人はすっかり自信を喪失し、自己決定能力も失っているようです。亀井さんとの共著で指摘したように日本が液状化している。


亀井 国家としての自信と誇りを失っているんです。瀋陽で総領事館事件が露見したとき、マスコミはあれだけ「国家主権が侵害された」と大見出しで騒いでいましたが、亡命者一家が韓国に送られた後は、一件落着となってしまいました。しかし一家の安全と「主権侵害」は別問題です。最近になって阿南中国大使が「責任を感じる」と言ったようですが、では、責任をとるのか、というと、そうでもない。


濤川 問題の総領事は、外務省を退いて外郭団体の幹部になるんでしょう。この「無責任体質」は真珠湾以来変わっていない。とにかく戦争がおきるかもしれぬ緊迫した情勢の中で大使館をカラにする。宣戦布告が遅れ、日本は大いに信頼を世界からそこねるというスーパーミスを犯した責任者2人を戦後外務次官にまでしてしまう国ですから。


亀井 中国側が謝罪するか、しないかは、向こうの判断ですから日本の力が及ばないこともあるかもしれませんが、日本は少なくとも大使の更迭や総領事の処分など、きちんと行い、内々で処理するのではなく、公表すべきです。
 北朝鮮による拉致事件も同じです。国として帰国した5人をケアして、できるだけ早く家族で一緒に生活できるようにしなければなりませんが、それだけで拉致問題が終わりではないのです。


濤川 工作員が指名手配になったり、新たな被害者の氏名と顔が公表されたり、とても「終幕」とはいきません。


亀井 そう、警察庁の調べではざっと100人近くの拉致被害者がいるんです。金正日が拉致は国家の行なったことだと言うのなら、これは警察の出る幕ではなく、戦争と同じですから。しかし、一部の英雄主義者、妄動主義者の行ったことだとしているのですから、これは犯罪であり、警察が関与すべきものです。
 ところが、犯罪の被害者が帰国して3ヵ月たったというのに、被害調書さえ取っていません。5人に事情聴取をして100人近い拉致被害者の手掛かりを掴み、その情報を北朝鮮にぶつけなくてはならないのです。先日、警察庁長官と安倍官房副長官に電話して、一刻も早く事情聴取をするべきだと言ったところです。


濤川 他の拉致事件について何らかの情報を知っているかもしれない5人に事情聴取もせず、北朝鮮に対して家族を帰せと言ったところで、向うが相手にするわけがありません。筋を通していない。


国内ミサイル防衛を急げ


亀井 北朝鮮問題は拉致だけではありません。100基ものノドンミサイルが日本に向けられているという現実があります。ノドンはアメリカには届きませんが、日本は射程距離内ですから、対北朝鮮の利害関係は日米で異なるのです。しかし幸いなことにアメリカも核拡散防止という国家戦略の中で北朝鮮を問題視しており、日米で協力してミサイルの全面撤去と核開発の中止を要求していけばいい。残りの拉致被害者については1ヵ月なり2ヵ月なりの猶予期間を与えて、調査報告をさせる。北朝鮮が日本にミサイルを撃ってきたところで、北も報復されて火ダルマになってしまうのだから、ノドンも日本に対しては張子の虎なのです。ミサイルを撤去することで経済援助を得たほうが得策ではないか、とトータルに交渉すればいいのです。
 先日、防衛局長に問い合わせたのですが、日本の軍備ではノドンを撃ち落とせないそうです。そういう状況の中で外交交渉などできるわけがない。まずミサイルを撤去させる交渉をしつつ、アメリカから迎撃ミサイルを緊急輸入して配備しなければなりません。ミサイル防衛網構想について防衛庁長官は前向きに考えてはいるようですが、政府として一致しているわけではない。TMD(戦域ミサイル防衛)までいくかは別としても、日本におけるミサイル防衛はできる話ですから、喫緊の課題です。にもかかわらず政府の腰が引けていて、被害者5人の人情話だけに対応を絞るのは間違っています。


濤川 外交的なセンスがなくなっているのですね。聞くところによるとアメリカのPAC3(パトリオット改良3型)ならノドンを撃ち落とせるそうですから、日本でもこれを大量生産するべきでしょう。北朝鮮が本当にミサイルを撃ってくるとは考えにくいですが、万が一に備えるのが防衛ですし、国家の第一義の責任は国民の生命財産を守ることですから、PAC3を大量購入するかライセンス生産でもして装備するべきです。その上で、北朝鮮にミサイルを全面撤去させることが重要でしょう。なぜ自国が置かれている現実状況を冷厳に凝視しないのでしょう。
 また、あれだけ批判された外務省が何一つ変わってないのも腹立たしい。


亀井 そう、外務省の事なかれ主義は困ったものですが、小泉首相訪朝のように個人プレーに走ってしまうのも問題です。私のような警察にいた人間からすると理解しがたいのですが、情報を自分だけで独占して、局で組織的に引き継ぐことをしません。アメリカの国務省のような積み重ねがないから、外交ノウハウを持っていない。だから再び田中均のパイプに頼ろうとしているのですが、元はといえば北の工作員ルートですよ。


濤川 そうしたルートで交渉している限りは、きちんとした約束はできませんね。引田天功さんにお願いするほうがまだマシなのではないか。


亀井 田中氏の独断外交について、私がいつも「引田天功でもこんなことはできない」と言うものだから、引田さんは私が高く評価していると思ったらしいんです。それで先日彼女から、「私が案内しますから、金正日総書記に会ってくれませんか」と言ってきましたよ。(笑)


現実認識の甘い小泉内閣


濤川 私は講演などで日本中をまわっていますが、地方にいくと経済は冷え込み、伝統ある代表的な企業でさえバタバタ潰れて焼け野原のようです。小泉純一郎氏が総理に就任した当初は、みんな期待しましたし、かくいう私もかなり期待して『小泉純一郎を読み解く15章』(文芸社)という本まで書きました。しかし、どうもこれは違う。このまま小泉内閣が続くとまずいことになるという雰囲気が地方に行くほど強くなっているのです。年間の自殺者が3万人超というのに現実認識が冗漫です。小泉首相も竹中大臣も「そんなに悪い状態じゃない」とケロッとしている。大地に耳をつけて実情をつかみ問題解決に立ち向かってほしい。


亀井 小泉首相は常に構造改革を唱えていますが、改革すること自体は誰も反対できません。「不良債権の直接処理」も同じで、誰も抵抗できませんよ。しかし、その中身はといえば金を借りている人間に金を返せ、返せないなら潰す、という話です。借金を返せというのは当り前のことですが、この企業は社長も従業員もしっかりしているし、景気がよくなれば稼いで返済するだろうから、少しは猶予を与えようというのが、今までの日本の金融機関でした。ところが借金しているところに金を貸すなどとんでもない、そんな金融機関は潰してしまえということになってしまったのです。もちろん不良債権の処理はしなければなりませんが、従来の商慣習や生活慣習とかけ離れたことをやろうとしている。銀行に対してはアメリカの会計基準を急に適用したりして、軟式野球でそこそこやっていたところにメジャーリーグを持ち込んで、すぐに試合で勝てというようなものです。


濤川 小泉総理はもともと情が深く、のめりこんでしまうタイプ。いまは、アメリカン・スタンダード信奉者の竹中平蔵のいいようにされている感じです。あたかもハーバードの実験台にこの国の経済政策がなってしまっている。


亀井 アメリカのハゲタカ集団が日本経済を襲っている中で、ホワイトハウスもバックアップしています。そうしたことは経済外交ですから、日本がやってないだけで、世界では当然のことです。しかし、問題なのはこうした状況を日本の経営者が何の抵抗もせずに許していることです。


濤川 ハゲタカたちに日本の資産が食い荒らされているのに、ただ傍観しているというのは、単なる経済現象ではなく、日本人の精神的状況を象徴しているようですね。まさに国が溶けている。国のカタチがなくなってきている。


亀井 日本を2度とアメリカに対抗できない国にするという占領政策が見事に成功したとも言えるでしょう。アメリカに対して一定の評価をするのはいいけれども、戦後から50年たって世代交代が進み、妙な崇拝心、服従心が植え付けられた世代になってしまったのです。


濤川 政・財・官、マスコミなど、あらゆる分野で中心を担っているのが、戦後民主主義の世代ですからね。自己決定能力のない世代です。精神のコア(核)がない。


亀井 これほど資産デフレが進行して、100億円した不動産がたった5、6億円です。これだけ下がっていれば、いままでなら日本の経営者だって飛びつきますよ。


濤川 20分の1にまで下がっているのですか。


亀井 そうです。良くても10分の1。宮崎のシーガイアなんて総工費2000億円もかけたのが、162億円でしたからね。これだけ安くなっているのに、買い手はすべて外資です。なぜ日本人が手を出さないのかというと、不動産投資のためだと銀行が融資しないからです。対抗する相手がいないからハゲタカはよけいに買い叩く。


濤川 その結果、日本全国に荒寥たる光景が広がっています。そこで小泉政権はさらに不景気路線を加速するというのですから、デフレが進行して不良債権処理のイタチごっこですね。不良債権処理のみが絶対善になってしまっている。


亀井 小泉さんが総理に就任してから不良債権が10兆円ほど増えたでしょう。その間、銀行だって処理していますから、バブルのころのものはほぼ整理できているんですよ。不良債権を増やしておいて、それを処理しろだなんて、ハゲタカの餌をバラまいているだけです。
 だからベーカー駐日大使やアメリカの商工会議所の会頭にも言ったんです。いつまでもハゲタカをバックアップしていたら、彼らだって腹いっぱいになって帰れなくなるよと。いくら安いからといって買いまくっても、捌けなくなったらおしまいです。いまアメリカが日本に対して要求するべきは、景気を良くしろということですよと。


濤川 亀井さんは50兆円の国債を発行して景気を刺激するべきだと主張していますが、小泉総理は相も変わらず「構造改革なくして経済成長なし」です。にもかかわらず、不景気による税収不足で国債発行額を増やしたりと、一貫した姿勢が見られませんね。


亀井 景気を刺激することはもちろん、アメリカの経済外交に対して、きちんと対抗するべきなんです。向こうだって日本の鉄鋼輸出が増えればすぐに関税をかけてセーフティーガードを行使するんですから。日本が円安頼りで輸出を増やそうなんて、短期的には効果があるかもしれませんが、長期的には国が溶けていくことですよ。円の価値が低くなる話なんですから、資源のない日本にとっては間違いです。


濤川 日本という国が経済的危機に見舞われているというのに、小泉首相は道路4公団民営化に象徴されるように、「抵抗勢力」や官僚との対決に夢中です。国家経営を全体構造でみつめようとしない。


亀井 総理が間違っているのは、はじめから官僚を敵にしていることです。役人を悪役にしておいて、あとは作家や経営者を集めて「改革!」と号令をかけるだけ。やはりそれぞれの分野で、いまの日本のどこが悪いのか分かっているのは官僚ですよ。彼らだってまずいと思いながらやっているんです。
 私が政調会長当時の平成12年、中海の干拓事業など223の公共事業について中止勧告を出しました。総額で2兆8000億円でした。予算編成が厳しく、いらない公共事業を見なおさなければ、本当に必要な新規のものができなかったのです。それで5年以上経過しても未着工、完成予定年度から20年以上経過しても未完成など、4つの基準をつくってバッサリ切りました。これで各省に指示するよう、政調会長代理の谷津義男さんに言いました。ただし、夜8時までは一切作業するなと。なぜなら地元の事業を切られてはかなわんと議員が押しかけてくるからです。これが結果的に当たりでした。夜8時に自民党本部に灯がついて、議員がわんさと詰め掛けてきた。そこに各省の局長や課長を呼びこむわけですから、戒厳令指令部のような雰囲気に役人たちも本気になったんですね。
 すると役所のほうが便乗してきました。いままでこんな事業に予算をつけていいのかなと思いながらも、地元の圧力などで自動的に対前年度数%増の予算を計上してきたわけです。それが明確な4基準が出されたことで、この際ムダなものは全部切ってしまえと。ただ切るだけではなくて、その分の財源は必要な事業につけるわけですから、役所としても乗れる。建設省(現国土交通省)などは、こちらが予定した以上のものを持ってきましたよ。


濤川 小泉総理のように役人を敵に回すのではなく、味方につけることができれば改革は迅速に進むでしょうね。民と官の本当にいい意味での緊張関係を大切にして。


亀井 そうなんです。あのときは上手くいったものだから、遊び心が出ちゃったんですよ。223という数字、なんだと思いますか。


濤川 223……?


亀井 その年の総選挙で自民党が取った議席数ですよ。


濤川 なるほど(笑)。たしかに公共事業を削減するだけなら、財政は改善されるかもしれませんが、景気は刺激されない。しかし、新たに本当に必要な事業を行なうのであれば景気対策としても有効ですね。


亀井 そうなんです。先の総裁選でも訴えましたが、小泉総理のようなチマチマとした改革ではなく、革命的改革が必要なんです。明治維新、敗戦直後に匹敵するような改革を、21世紀初頭にやらなければならない。戦後50年で明らかになった矛盾や間違いを検証して、21世紀の国際社会の中で日本が生きていくにはどうすればいいのかという国家目標が重要なのです。


濤川 亀井さんの考える国家目標とはどういったものですか。


亀井 経済産業省が「通商国家」を目指すなんてことを言ってましたが、日本の場合は商業国家や金融国家になれるわけがない。すでにその分野に特化した国があるのですから。力を入れるべきは第1次産業と第2次産業です。特に科学技術に資金を投入して最先端部門で勝負するしかないでしょう。現在の不景気で開発に資金を投入できる企業などないので、国家戦略として財政投入するべきです。景気対策のためにも積極財政を行ない、科学技術、そして農業ならバイオテクノロジーに特化する。
 経済が成長するためには民需が増えなければなりませんが、いまの不景気路線では出てくるはずもありません。その呼び水となるのが社会資本整備---空港建設、高速道路、ゴミ処理場、介護施設---つまり公共事業です。公共事業というと、とかく「悪」とされますが、それ以上に軍事産業は非建設的なものです。しかし、軍事産業によって科学技術の発達が促され、ITなど新しい産業が生まれてきました。たとえば東京大改造や地方の大改造をやることでニュービジネスが出てくるんですよ。


濤川 公共事業というと、バブル経済当時のイメージが強いのでしょうが、バブル経済自体、次にステップアップするためのハシカのようなものだという考え方が経済学にあります。バブルというと絶対悪のように見られますが、歴史的にみると高度成長の後にオランダでもイギリスその他の国でも経験してきたことです。


亀井 バブル崩壊の痛手から、世間ではもう経済成長は諦めようといった雰囲気が蔓延しています。不景気といえども、そこそこ衣食住足りた生活ができているからいいといいますが、これは間違いです。何も贅沢三昧するという意味ではなくて、物心ともに豊かな生活を目指していいんです。終戦直後の惨澹たる状況で当時の日本人が、現在の航空機やパソコンなんて想像できましたか。アジアやアフリカの発展途上国の方々も、敗戦当時の我々と同様に夢のような生活を思い描いているんです。
 しかし彼らの発展は、日米など先進国とのつながりがあって初めて達成されるものです。このまま日本がマイナス成長を続けてアジアやアフリカから物を買えない状況になれば、彼らの経済発展はストップします。我々が生活水準を向上させることが、途上国の発展にもつながるのです。


教育革命の必要性


濤川 おっしゃる通りだと思います。亀井さんの国家目標を伺うと、歴史の連続性をふまえた思考から生み出されたものですね。この縦軸思想というのは日本の戦後教育から抜け落ちてしまったものです。戦後教育はコスモポリタニズムや市民主義のようなことを謳いながら、愛国心や家族といったものを軽視してきました。その原点には憲法と教育基本法があると思いますが、その結果、高度経済成長を成し遂げたものの、モノとカネばかりに心が奪われ、目先のことしか考えられなくなってしまいました。そこへアメリカニズムへの盲信となれば、より拝金のみになり「人がより良く生きようとする意志」が抜け落ちる。「人に迷惑かけてないんだから」と出会い系サイトでは中高生が自分から5万円だ6万円だと値段をつけて、いい大人達を誘っているのです。戦後教育に携わってきたものとして、国家目標の達成のために教育改革、そして教育基本法の改革が必要不可欠だと思うのですが、いかがお考えでしょうか。


亀井 まず家族愛や祖国愛を教えることを根幹においた基本法をつくることです。現在の教育で1番欠けているのは、人間についての基本的な理解をさせていないことだと思います。知識を教えることは重要ですが、それだけでは何の意味もない。人間とは何なのか、この地球上で昔からどのような思いをして、どういった生き方をしてきたのかを教えることです。
 そう簡単に人間なんて理解できませんよ。また理解できないことを教えることも重要で、時代、民族、国籍も違えば考え方も違う。しかし、歴史の連続性の中でそれぞれの人間がそれぞれの人生を送り、その中にきみもいるんだ、ということを具体的に教えるべきです。たとえば、同じ武家の出身でも一方は織田信長になり、他方は西行法師にもなる。戦争に勝って天下統一したという話は教えるけれども、個々の人間の魂の生きざまも教えなければなりません。


濤川 五臓六腑に魂が染みわたるような生きざまを教えたいですね。第2次大戦中リトアニアの領事代理だった杉原千畝は約6000人ものユダヤ人にビザを発給して命を救いました。日独伊の三国同盟がありますから、ユダヤ人を助ければ裏切り行為です。日本の外務省に何度電報を打っても回答はノーでした。にもかかわらず、自分の信念を貫くべく夫人と徹夜でビザを書き続けました。日本人として悪しきものに対して屈服しないという信念ですね。こういうノブレス・オブリージュというものが、かつて日本人の歴史的精神性の中には深く内在していた。


亀井 基本は指導者が背中で教育することです。テレビや週刊誌を見て、この国の指導者たちが勝手な事ばかりやっていると思ったら、子供もそれでいいと考えるでしょう。財界の方々も、儲かればいいといって、偽ラベルで詐欺のようなことをしていたら、いくら学校教育をやっても水の泡です。
 人間の本能というものは、やはり自己中心的であって、それを制御する力を身につけていかなければならない。そのためには、目指す生き方、理想の思い描く人生を知らなければなりません。私にとっては父親の影響が大きいですね。貧しい家でしたが、外地から引き揚げて開拓団に入ってきた人たちの面倒を必死でみてました。片道4、5里の道を毎日自転車で通うんです。理由なきイジメにあっていた被差別部落の人たちの駆け込み寺にもなっていまして、惨状を泣いて父親に訴えてくる。すると父は向うを張って助けていましたよ。だから平成2年の総選挙で同じ広島3区に開放同盟から小森龍邦さんが出馬しましたが、被差別部落の1部分は私を応援してくれました。父に世話になったからと言ってね。


濤川 父親の背中を見て教えられたというのは幸福なことですね。いまの日本の家庭では父親の存在が薄くて、亀井さんのような家庭は稀ですから。
 先日『ハリー・ポッター』を観たのですが、イギリスの教育は愛国心、正義感、そして自己犠牲や奉仕というものを徹底して教えますね。だから厳しい。私は日本の戦後教育は正直イギリスのそれに負けたと思いました。


亀井 父親は厳しくて、よくぶん殴られました。そのかわり両親がきちんと役割分担していて、母親は叱ることなく「よし、よし」と宥めてくれました。それがいまは、両親で競争して溺愛しているでしょう。溺愛ならまだしも、浮気の競争をしているような家庭まであるのですから、子供が育つはずがない。


濤川 いま世界200カ国以上の中で子供部屋に1番カネがかかっているのは日本なんです。テレビも電話もパソコンもありますからね。いまの日本の子供たちに欠けているのは、精神的な意味も含めての飢餓体験です。私は昭和18年生まれですが、戦後のモノがない時代で、台風の翌日に農家に入って落ちた柿を拾って父親に叱られました。よそさまのものに手を出すんじゃないって。
 ルソーの『エミール』にも、子供をだめにするのは簡単だ、子供の欲するものを全部与えることだ、と書いてあるんです。日本の教育構造そのものです。与えられるだけカネを与え、モノを与え、ゆとりを与えている。基本的には子供にゆとりを与えてはいけません。


子供を親から切り離せ


亀井 本能のままなら我儘なだけで、自我が育たない。親や大人たちからだめだ、それではいけないと言われて、それでも反発するのが自我です。
 正直なことを言うと、戦後、魂を抜かれてしまった現在の親たちはしかたないと思っているんです。こうなったら親から子供を切り離すべきです。
 ドラスティック過ぎると言われるかもしれませんが、中学高校を一貫教育にして全寮制にしたらいいんです。いまでも私立にはありますが、国公立でも予算をつければ可能なはずです。親元から離して、共同生活やクラブ活動のなかで友情を育み、仲間でいろんな話をする。そこで本当の友人ができるでしょうし、それが後の人生を助けてくれます。いじめが問題だと言いますが、昔からありましたよ。少々のいじめにベソをかいて耐えるなかで、社会に出て苦しい目にあっても自殺を選ばずに生きていく強さを学ぶものです。


濤川 そこで人間や人生を学ぶのですね。


亀井 いまは土日になっても近所で子供たちが遊んでいないんですよ。親が車に乗せてどこかに連れて行ってるから。一時、日教組が放課後のクラブ活動禁止と言い出したりして、子供たちが学校で遊ばなくなり、地域社会でも遊ばなくなってしまいました。


濤川 共同体が崩壊しているんですね。かつては青年団や少年団とか、神社を中心とした鎮守の森があって、子供たちが遊びながら地域社会の中で育てられていました。社会学でいうゲマインシャフトがあった。地域に心のつながりがあったのです。家屋なども必ず縁側があった。そこで老若男女があらゆる話題を語り合った。すなわち地域文化です。


亀井 そうですね。いまのように手取り足取り親が子供の面倒をみることはやめたほうがいいとおもいます。18歳までは学費など払っていいけれども、そこから上は就職してもよし、進学してもよし。ただし、学費も生活費も自分で稼ぐこと。もちろん国から奨学金を貸与する制度は整備します。私も大学に入ったら銀座のキャバレーでボーイやったり家庭教師やったりして生活してました。昔はみんなそうでしたからね。
 昔からの持論ですけど、悪い子はぶん殴れ。当時の中曾根弘文文部大臣にも言ったんですよ、いまやってる教育改革なんて意味がないから、悪い生徒は殴っていいと大臣告示を出せと。


濤川 ちなみにアメリカは州ごとに違うんですけれども、30州をこえる州が体罰容認なんですね。


亀井 小学校時代、先生からよく殴られましたよ。いまは本当に感謝していますが、殴られに学校に行っていたようなものでした。あまりにも殴られたから、顔がおかしくなったんです。生まれたときは光源氏だったのに。


濤川 ハハハ。


亀井 本当ですよ。だから亀井静香という名前をつけたんですから。

※文中にある両氏の共著『繁栄のシナリオ』は中経出版より刊行しています。

※無断転載を禁ず


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