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新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2003.3.11◎毎日新聞
緊急対談
「目覚めよ、日本!」

今や「ポスト小泉」の一番手に躍り出た亀井静香代議士と保守派の知性として聴く人を唸らせる中西輝政京都大学教授。今、日本を代表する論客2人が、日本の現状を憂い、徹底して語り合った、そこには、漂流する日本丸の針路を指し示す珠玉の言葉がちりばめられている。

(司会/本誌編集局長・佐藤尊徳)


?小泉訪朝は大失敗?


---お二人とも小泉首相の訪朝は失敗だったと明確に言っていますね。


亀井 パンドラの箱を何の見通しもなく開けてしまって、本当にお粗末です。外交の基本を忘れています。

---イラク問題についての小泉内閣の対応はどうですか。


亀井 アメリカに対して、同盟国として言うべきことはきちっと言った上で判断するべきです。言うべきことを言わないなら、同盟国とは言えません。


中西 先に支持すると言ったら、後から言う言葉は半分以下の重みになりますからね。


亀井 しかも、そのときの雰囲気で決めると。雰囲気で日本の運命を決められては困ります。

---それでも内閣の支持率は落ちませんね。


中西 国民がまったく愚民化しているというか、とにかくマスコミの罪が大きいですよ。私は小泉首相をだれがなぜ支持したのか、そしてどこを間違ったのか、反省するべき時が来ていると思います。

---日本経済の問題は安全保障を抜きに語れません。


中西 最近聞いた話ですが、昨年、日朝交渉を進めようとしていた外務省の田中均アジア太平洋州局長たちの動きを、小泉訪朝発表前からアメリカが監視していたとのことです。アメリカが一番心配したのは、バックに中国がいるんじゃないかということです。大連や北京などで日朝が交渉をしていましたからね。8月30日に小泉訪朝を発表した時、私はロンドンの空港で新聞を見て驚きました。欧米では、北朝鮮が核兵器を作っているという声が多数派だったからです。それで、訪朝後に大きな問題が起こるだろうと書いたんですが、はじめは随分文句を言われました。しかし、1ヶ月経って北朝鮮が核を作っていることを認めて、やっぱり正しかったんだと。


亀井 事実関係を知らずに共同宣言の文案を作って、訪朝したのは考えられないことです。


中西 拉致被害者が8人死亡したと知らされたにもかかわらず、そのままの文案で調印している。外交上は考えられません。


亀井 パフォーマンスさえすればいいということではないでしょう。政府も国民も国家の基本を忘れています。力の強いガキ大将に黙ってくっついていれば、よその不良少年から殴られないくらいに思っている。しかし、日本がそんな姿勢でガキ大将がほんとに守ってくれるのかとは考えていません。

---国防意識の高揚を


中西 国益の2文字がない外交なんですよ。「アメリカのイラク攻撃を支持する」と言わなければならないなら、日本の機軸をはっきり打ち出して、一歩でも日本に自立への道につなげる。少なくとも、「イラクが終わったら、必ず北朝鮮問題をしっかりやってくださいよ」と念を押してほしかった。
 小泉さんには、タイミングを読む力がまるっきり無いんです。支持率、世論の動きを見る目だけはあって、早めにアメリカ支持を打ち出すと支持率が早く下がるという理由で、タイミングをずらしている。国連で大使にアメリカ支持を言わせておいて、外務大臣も総理も「まったく決めていません」では、国民を欺く二重外交の典型です。その一方で北への備えも怠っている。


亀井 拉致問題に対するアメリカの関心はゼロに近く、核問題には神経質です。下手をしたら拉致問題を置き去りにして、安全保証問題だけで北朝鮮と取引する可能性があります。ノドンの射程距離を考えれば、アメリカにとっての北朝鮮問題は日本とは全然違うわけですから。


中西 日朝共同宣言は、北朝鮮がNPTを脱退した時点で完全に空文化しています。それにもかかわらず小泉訪朝の「成果」として宣言を堅持しようとするから、どんどん大きく間違ってくるんです。要するに、「支持率外交」なんですよ。マスコミ的には、拉致被害者5人が戻ってきたことはひとつの「成果」になっていますからね。やっぱりマスコミの罪ですよ。
 恐らく、イラク問題が終われば、北朝鮮は拉致家族問題の揺さぶりに出てくるでしょう。拉致被害者を何人か帰すという「微笑みのカード」を出す一方で「威嚇のカード」、例えばミサイルの射程をだんだん長くしていく。5月くらいから北朝鮮は食料が一番苦しくなってきますから、両方のカードを使い分けて来ると思います。そうすると、日本は浮き足立ってきますよ。何人か帰ってくるんだったら、米を出すなどという話になったらアメリカは呆れ果てるでしょう。拉致被害者の家族を取り戻すため、今すぐ日本一国だけでも経済制裁に踏み切るべきです。アメリカのワイドショーでも金正日はとんでもない悪人だという認識が定着してきました。それなのに日本がこんな体たらくになると、アメリカは北朝鮮の核を認めても構わないんじゃないかという話になりかねません。これが一番怖い。


亀井 イージス艦を緊急配備すれば、かなりの確実でノドンをパトリオットの改良型で打ち落とせます。2兆円も掛からないんですから、直ちに補正予算を組むべきです。日本の自衛力の強化はアメリカにとって歓迎できない点もあるかもしれませんが、日本だけでなく在日米軍の基地まで守る体制を作れば、拒否もできません。


中西 拉致問題以降、日本人の安保意識、国防意識が少しいい方に動き出しています。それを好ましくないと思っている人が、政府にもメディアにもいます。一番大事なことは自分の力で守れる国を造ること。50年間平和ボケしてきた日本人を教育していくことが、いまの政治にとって一番大事なことです。愚民のまま放置することが、将来にとってどれ程危険か。


亀井 補正予算を組んでそういう体制に踏み込んでいくことが、憲法改正について国民が精査するきっかけにもなります。


?通商でも国益を放棄?


中西 安全保証でも経済政策でも、日本が国として一人で立っていく時代がやっと来たと感じています。今回の偵察衛星の打ち上げについては日本のマスコミはあまり騒いでいませんが、アメリカでは物すごい反響です。「日本はいよいよ一歩踏み出した」と。ただ、中国が浮上してきたので日本をもう少し強くしようというアメリカの考えですから、日本の力の向上は受け入れる動きも出てきました。 ブッシュ政権は、「強い日本」にしなければいけないと考えた戦後初めての政権です。アメリカの考え方は日中を競争させてアジアがひとつにならないようにすることです。そして強いほうを叩くつもりです。戦前に日本を叩いたのはこの発想からです。いま、中国が浮上してきたことでアメリカ人の意識は変わってきています。そういう意味で、日本にとって新しい一歩を踏み出す歴史的チャンスなんです。


亀井 誤解を恐れずに言えば、今の日本はそういう危機に過剰反応してもいい。侵略するわけじゃないんですからね。国を守るという意識や体制がなかったのを、是正するだけの話です。


中西 安全保証や対外経済政策が完全にバランスを失っています。これを回復するには、「国益」をキーワードに戦後日本の流れを変える必要があると国民が分かってきました。また、外国が理解し得る環境が出来てきています。
 バブル崩壊後の日本が不況に喘いでいる原因を考えると、国際的に攻撃を受けている面が相当あります。たとえば中国に対してセーフガードの発動など、言うべきことを言っていません。自由貿易の原則を言うなら、本家のアメリカが日米摩擦の時にどんな対日政策を取ったのかを考えるべきです。
 何も悪い意味で自己本位になれということではありません。世界と共存共栄しながら、日本の正義、道徳、モラルを示して国益を議論していくべきです。今の若い知識人は国家観が無いままに国益と言っているから、アメリカに威圧されるとすぐに引っ込み、中国に文句を言われると怯えてしまう。ですから、私は「日本本位」という言葉を是非提起したいと言っているんです。


亀井 日本もかつて貿易摩擦を起こし、相手の国は必ず制裁をちらつかせました。日本も制裁すると言って、ちゃんとガードするべきです。


中西 経済政策が国益を放棄しています。中国に対するセーフガードでも、日本は腰が引けているために最初から足元を見られて、最後は自動車まで持ち出されました。
 国の根幹は農業と中小企業と国防です。アダム・スミスも「国の存立、維持、国防に関しては自由経済の原則は当然後回しにされるべきだ」と、国富論にはっきり書いています。自由経済の考え方を一番履き違えているのは、今の日本ですね。


亀井 日本は結局、第1次産業と第2次産業、そしてバイオを含めた最先端技術で食べていくしかないんです。国際協調を頭に入れながら、外国からの障害を除去、制御していくのが政府の仕事です。それをやらないなら政府なんていりません。今、日本には政府が存在していないんですよ。


?20世紀の失敗に学べ?


中西 21世紀になったのに、日本人だけが20世紀病に煩わされています。20世紀は各国が国益だけを懸命に追い求めて、それが大戦争の原因になりました。21世紀は大国同士の大戦争が無くなって、各国が安心して国益をぶつけ合える時代です。一年前だったら、今回の米仏の対立は戦争になる可能性もありました。


亀井 例えば中国との関係では、尖閣諸島の領有権問題が戦争に発展するわけがないですし、経済的な衝突だけで水爆を落とすわけもありません。だから、国益を思い切って主張していけばいいんです。


中西 お互いの「縄張り」を尊重しましょうという気持ちを表すために、相手が踏み込んで来たときには、必ず叩いて押し返すべきです。日本人に一番大事なことは、日本の国としての気概を見せることです。


亀井 運輸大臣の時に日米航空交渉が決裂しかけました。アメリカが「制裁する」と脅してきたので、私は「日本もイーブンの制裁に入る」と言ったんです。イーブンだと向こうが損をするので、「もう一度協議させてくれ」と言い出し、結局、これが同じ国の言うことかというくらい、アメリカは譲歩してきた。ダメなものはダメと突っぱねればいいんですよ。


中西 無原則で後退することがいかに危険かを、日本は歴史の中で勉強したはずです。今回のイラク問題で、日本は国連決議の有無について議論をしていました。昔、日本が国際連盟を脱退したのは、日本が国際協調だと言い過ぎていたことが遠因にあります。ワシントンの軍縮会議が大正11(1922)年にありましたが、アメリカは非常に不利な戦艦の比率を日本に飲ませました。今で言えば数値目標です。そんなものを受け入れて、日本は「国際協調」だからと喜んでいたんです。中国で国民革命が起きた時には、イギリスもアメリカも軍隊を派遣して武力制圧に乗り出したんですよ。ところが日本はやられっ放しでした。昭和2(1927)年の南京事件は有名でしょう(編集部注:中国の北伐軍《国民政府軍》が南京の日本領事館を襲撃した事件。当時の日本は平和協調外交という立場から武装解除して在留日本人を領事館内に保護していたが、北伐軍約200人が無防備の領事官を襲い、領事以下多数の日本人に対して徹底的な略奪・暴行・陵辱を行った)。ところが、国内は大正デモクラシーで、吉野作造などの知識人が出てきて、幣原外交の国際協調しかないから仕方がないと今の朝日新聞のような論調で国益の主張を押さえ続けた。その結果、日本が日露戦争以降、国際法で認められていた大陸における正当な主権まで取られそうになったんです。それで特に軍人が我慢ならないと、政府の命令を聞かずに暴走したのが満州事変の始まりです。日本人が世界征服を考えて戦争をやったのかというと、全然違います。愛国心は、どこの国の国民も持っています。それがあったからこそ、何百年という歴史が続いて、国が成り立ってきたんです。それを極端に押さえ込むと必ず破裂します。


?有機的連携が日本流?


中西 私は最近、地方をよく旅行するんですが、地方都市が衰えていて、国の根幹が崩れてしまうと感じています。


亀井 政治家は、他人の痛みを分からなければいけません。今、政治は退廃していますよ。


中西 東京に来ると、物すごく活力があって栄えているのに、関西に戻るとどっちが現実なんだろうと戸惑ってしまいます。その足で地方へ出張すると、やっぱりこれが現実なんですよ、今日本の中枢に行けば行くほど、現実との距離が出てきます。首都圏にはほとんどのメディアが集中していますから、我々から見ると学者でも異様に能天気な議論をしていることがありますね。こんな状態で放っておいたら、この国の将来はどうなるのか。それを一番考えているのは、私の経験から言うと地方です。それから一番考えている年齢層は60歳以上の、特に繁栄期を見てきて、その前の日本も見てきた人たちです。この層が一番真実を見ているのに、政治にもメディアにも全然反映されていません。
 日本には今、「二つの日本」があります。本当の日本と、東京でブランド品を買いあさっているような上辺の日本、むなしい日本、虚無の日本。この二つの日本のどっちを見るかということですね。


亀井 私は2年前の総裁選挙で小泉さんと討論しましたが、小泉さんはマイナス成長路線で構造改革をやっていくという抽象的な話しかされていなかった。どんな社会を目指しているのか、その時ははっきりと言いませんでしたが、今は大体分かってきましたね。簡単に言うと、アメリカ型社会ですよ。強者が弱者をどんどん追い詰めていき、弱者は肥やしになってしまうという社会です。弱い木を伐採して強い木だけで元気な森を作ろうと言ったって、元気な木が無くなっちゃうんですよ。


中西 そこがポイントです。日本という国はどうやって成り立っているのかを考える必要があります。一見したら弱い木でも、この国は1万年の歴史の中で、全部が有機的につながっているわけです。イスラム圏、中華圏、欧米圏とは違うんです。弱い小さな木が、一番背の高い木の大切な養分だったりする。この文明の形を見間違えているから、アメリカ型の全部伐採してしまう「更地文明」を推し進めようとする。日本のエコノミストは歴史を勉強していないから、大きな見方を誤るんです。小泉さんの経済政策、構造改革に無いものは、「日本」という二文字だと思いますね。


?国粋化は国際化の礎?


亀井 郷に入れば郷に従うのが国際協調です。アメリカのルールに全部合わせてしまえば、経済占領です。アメリカに合わせろという人たちを持ち上げるから、日本はおかしくなっているんです。


中西 真の意味での国際化は、一番根本に国粋化がなければできないんですよ。竹中大臣はこの国家観を持っていないから、この頃は全部失言になって、存在感を全く示せないでしょう。


亀井 経営者を含めて、何のために自分は生きているのかという基本に立って考えれば、全てが明解に分かるはずです。東レの前田勝之助さんは「縁あって東レと関係ができた人たちを幸せにしないで、東レが金を儲けてもしょうがない」と言って、業績を伸ばしています。そういう日本人の魂を持って経営すれば、自然と上手く行くんですよ。


中西 欧米企業にも、結構そういう会社はあります。そうすると当然ながら、従業員のモチベーションは高まります。


亀井 大新聞の論説委員と懇談したんですが、ある人は「なんで亀井さんは小泉さんの足を引っ張るんだ。あなたが総理に選んだ以上、黙って任せておけばいい」と言う。だから「僕たちは総理を選んだ後、何もする仕事がないのか?」と聞くと「地元に帰って党勢拡大をやれ」と。これには呆れかえりましたね。


中西 国の根幹がおかしいときには、支持率の高さは関係ありません。政治家であれ、言論人であれ、立ち上がらなければならないんです、「小泉さんの後に人がいますか?」と言う人がいますが、誰もいないから支持するのでは、自殺行為ですよ。


亀井 いざとなれば自分が総理をやる覚悟がない人間が選挙に出てはダメですよ。


中西 日本はそんなに柔な国じゃないから、いざとなったら必ず現れますよ。根本的に日本人は馬鹿ではないと思いますが、2年間も「小泉さんの後がいないから」と言って、ますます悪化するのを座視しているのは退廃の極みでしょう。


亀井 しかし、9月の総裁再選は絶対あり得ないですね。問題は「9月までやったら、うちの会社無くなっちゃう。それまでに、何とかしてください」と地方で言われることがあります。


中西 9月までの間に、ひとつ心配があります。8月になると北朝鮮の食料が枯渇します。下手をすると、夏には総裁選どころではないほど、この国の根幹にかかわる危機が迫ってくる可能性があります。その前に総理の交替が必要になってくる。今、地方に行くと、本当に日本のことを心配している人が凄く増えています。明治維新のように地方から日本を支える。そういう意味で、日本人が目覚める兆しがあるのは、暗い世相ながらも一筋の光明ですね。

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