活動実績

新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2003.8.1◎月刊官界
特集インタビュー
「小泉改革は中身のない“真空改革”だ」

集団的自衛権の解釈を変えなければ……

---イラク復興支援特別措置法案が衆議院を通過し、参議院でこれから審議が始まります。この法案に関しては野党のみならず、与党内からも厳しい批判が出ていますね。現在、イラクでは米英両軍に対するゲリラ的な攻撃が続いており、多くの被害者が出ています。米国の新聞では、既に「ゲリラ戦争」というような表現をしているとこもあるほどです。このように泥沼化しつつある場所に、果たして自衛隊を派遣して大丈夫なのかといった心配ですね。亀井さんのご意見はいかがですか。


亀井 これは既に党議決定していますしね。私としても一応起立採決で起立しましたけれど。しかし、いろいろな法律を政府が作るのは勝手だけども、実際に有効に機能しない法律を作ったって、総理や防衛庁長官が運用に困ると思うんですよ。本心としては、こんな法律、作っちゃっていいのかという思いです。憲法との関係、例えば集団的自衛権についての政府見解を変えないでおいて、自衛隊の事実上の武力行使を容認する。しかも、手足を縛ったような形のままで。どうやって運用するのか。非戦闘地域といいますけれども、今、全土が戦闘地域だって米軍の司令官が言ってるわけでしょ。

---そうなんですね。


亀井 ですから法律ができたって、自衛官の安全、また派遣される要員の安全を確保しながらイラク国民のために貢献ができるなんて、そんな運用ができるんですか。法律を作るのは簡単ですよ。だけども、それに基づいて運用していくという段階で、極めて無責任な状況になるんじゃないですか。それでもいいという形で派遣するのかもしれませんけども、その結果については、総理や官房長官が責任を持たなければならないんですよ。
 そもそも国家、政治家にとって、一番大事なことは戦争を防ぐということですよ。民政の安定だとか、生活の向上だとか、いろいろやるべきことはあるけれども、何が一番大事なことかといったら、やっぱり戦争を防ぐことですよ。それを今はなんか戦争に協力をすることが国家の大義だみたいな、妙な倒錯した雰囲気があります。これはマスコミにもありますよ。御承知のようにね。
 さかのぼって言えば、日本は米国の同盟国であるがゆえに、米国に対して、戦争という手段を行使しないで、イラクが危険な国家である状況を解消する、そう働きかけるべきだったんですよ。私は米国へ1月に行って、そのことを講演でも言いました。アーミテージ(米国務副長官)など、政府高官にもをれを言ったんですけれども、当時はもう戦争状態みたいな感じでしたから、これはなかなか止めるのは難しいなと思ったけれども。
 それにしても日本国としてはそうしたアドバイスをしなければいけなかった。それではフランスやドイツと一緒にされるじゃないかという人もおるけども、アメリカに対して、アメリカのためにも世界のためにも必要なアドバイスをするのは同盟国として当たり前のことではないですか。同盟国だから、忠犬ポチみたいに米国に後をくっついていけばいいんだというわけにはいかない。その上で、忠告にもかかわらず、戦争をやっちゃった場合、日米安保条約を破棄するわけにはいかないわけだから、同盟国としてアメリカに対して実効性あるサポートをすればよかったと思うんですよ。しかしその場合も、いやしくも自衛官を危険な状態に出すようなことでサポートしちゃいけませんよ。

---忠犬ポチではダメと?


亀井 ですから、集団的自衛権との関係など政府見解をきちっと変えるとか、憲法との関係をきちっとした上での立法措置をとらないとダメではないですか。自衛隊が行く場所は戦闘地域じゃないっていっても、これは機能しません。もしそれが機能した場合には逆に憲法との関係が出てきますよ。これはしょうがないわという形、憲法と離れた形、憲法違反みたいな形で自衛隊が行動していいのかということが出てくるわけですから。アメリカだって占領下で日本に押しつけた憲法だから、その憲法の中でしか日本が行動できないっていうことはわかっている話ですからね。

---亀井さんの立場は、集団的自衛権の解釈などをしっかり変えて、そして武器の使用基準の問題をクリアした上で、ということですか?


亀井 それと部隊活動があります。正当防衛だとか、緊急避難だとか、個々の判断で、個々の隊員が危険と認め、それに対して対応できるだけではダメです。

---武器の使用基準で言うといわゆるAタイプ、Bタイプとありますが、Bタイプまでちゃんとやれるようにしなければいけないと。


亀井 そうでないと、攻撃に対して対抗、対応できないでしょう。また隣にいる例えばカナダの軍隊が攻撃された場合に、見て見ぬふりするなんてことはできないでしょう。それに対して、攻撃を阻止するために、戦闘行為を行うということの法的根拠をどうするかという問題でしょう。

---今のままだと、見て見ぬふりをしなければいけないわけですね。


亀井 だから、そういう状態であるにもかかわらず、じゃあ自衛隊を派遣できるのかという問題が出てくるんですよ、今の法律だったら。

---なるほど。以前亀井さんに集団的自衛権の解釈問題についてお伺いしましたけれども、ここでもう1回お伺いしたいのですが。


亀井 私が政調会長の時にはイラク問題は起きてなかったんだけれども、同盟国が攻撃を受けた場合、これは当然ながら同盟関係なんだから、これに対して武力行使をともにする、集団的自衛権は当然行使できるという考えでした。

---一緒に反撃できると。


亀井 そういう場合じゃなくて、一方的に同盟国が他の国を攻撃する場合。これは憲法の立場上、集団的自衛権をそこまで認めるわけにはいかんだろう、というのが私が政調会長だったときの見解で、その1週間後に、別に申し合わせたわけじゃないんだけど、野中(広務、元幹事長)さんが全く同じ見解を出しました。では今の事態でどうかというと、アメリカがイラクを攻撃する時点で、一緒になって攻撃部隊にイギリスと同じように加わるということは私はできないと思うんですよ。集団的自衛権があってもできない。しかし、例えば今のような状況の中で、アメリカが現地で攻撃を受け、一緒になって行動している例えばカナダのような他国の軍隊が攻撃を受ける、あくまで受け身ですが、攻撃を受けた場合には、こちらも武力行使ができるというところまで、解釈を広げていいと思います。

---カナダとは同盟国じゃないんですけども……。


亀井 じゃないんだけど、一緒に国連憲章に基づく決議を背景にして行動している部隊ですから、そこが攻撃を受けた場合には反撃してもいいと思う。これは集団的自衛権の中に入るという解釈をしています。
 そうではなくて、一方的に米軍が攻撃を加えている時はダメです。そういう解釈に変えたって私はいいと思う、現実問題として。でないと自衛隊なんか派遣できませんよ。
 一方、今のイラクの状態で自衛隊を全然派遣しないでおれるのかという問題があります。できませんよね。文民が攻撃されるのを誰が守るかということですから。他国の軍隊に守ってもらうことなんてできないわけですから。だから集団的自衛権の解釈について、状況の変化の中で、ある程度柔軟に解釈をせざるを得ないと私は思います。
 要するに欠陥法律ですよ、こんなものは。こんなものを作ったって、運用で困るだけですよ。運用できないような法律を作る場合、それが欠陥だから賛成しないという場合もあるけれども、しかし党議決定で欠陥はあるものを認めることになった以上、やっぱり賛成せざるを得ない。

---衆院の採決の際、野中さんたちは記名採決で、と言いました。こういう重要な法案を記名採決でやるべきだというのはある程度分かりやすい。国会のこれからのあり方としてどのようにお考えですか。


亀井 原則としてはそうでしょうね。しかし、採決はこれからはボタン式でやればいいんですよ。もう壇上でぐるぐる回る必要はないですよ。


秋の総裁選には……


---さて、残るはいわゆるテロ対策特別措置法の延長問題ですが、結局次の臨時国会でということになったようです。


亀井 なんで今国会でやらないんでしょうか。ふざけてるのは、今国会もまだ20日間も期間が残っているのに秋に臨時国会開くんだということを言ってるわけでしょう。テロ特措法のために。時間があるんだから今国会でやればいいじゃないですか。
 それと総裁選を前倒しにしましょうと言い出した。なんで前倒しにしなきゃいけないのか。そうした方が小泉(純一郎、首相)さんの再選に有利になると思ってるのかもしれないけど、絶対有利になんかなりっこないですよ、そんなことは。(総裁選を)前倒ししたら小泉さんに票が行くなんていう保証は何もない。さらに再選を前提に衆院解散を10月にやるみたいなことを言っちゃったでしょう。解散風を吹かせれば自分の方が有利になると思っているんでしょうけど。日本はいつから北朝鮮になったのかと言いたいですよ。いつ北朝鮮みたいな独裁国家になったのかと。官邸だか何か知らんけど、勝手に総裁選挙を前倒しにする。それで臨時国会を開く、解散をするみたいなことを、一方的にポンポン、マスコミを使って既成事実化していこうなんていうことは、どう考えたっておかしいですよ。

---昨日は古賀誠(元幹事長)さんが9月20日からの10日間で総裁選挙を予定通り実施すべきだと発言されました。一説には既に9月11日か12日に総裁選を実施するのではないかというふうに、もう日程が流れてますよ。


亀井 こうことは両院議員総会で決めないといけないですよ。少数派閥の森(喜朗、元首相)さんのところと山崎さんのところと合わせたって100人いないんですから、そんなことは決められませんよ。我々がノーと言ったらそれまでです。

---小泉さんたちの考えは前倒しをして、そして総裁再選を確実にしてということでしょうか。


亀井 前倒しにしたら早く小泉さんの命が短くなるだけの話ですよ。だから早く政権の座から降りたいんでしょう。

---すでに総裁選の話になっているので、お伺いしますけれども、古賀誠さんは昨日、候補者を1本化すべきだということも発言されました。この点について亀井さんは、どう思われますか。


亀井 今は、我々の方で1本化した方がいいのか、バラバラに行って決選投票で手を結んだ方がいいのか、まだ決めてないんですよ。だから今週から協議に入ろうと思っています。
 いずれにしたって、こちらとしてはきちっと勝てる方法で総裁選に臨みますけれども。国会開会中にはやはり政権の足を引っ張るみたいに思われてもかなわないから、国会が終わってからにしようと思っていたのだけれども。逆に、あちらから早く仕掛けてきちゃった。そうなってくるとこちらもいつまでも、唯々諾々と妙なことをやられっぱなしでおるわけにはいかないから、総裁選にどう対応するか、その決定をちょっと早めなければいかんかなと思っています。それで確実にもちろんきちんとした方針を出します。

---亀井さんは総裁選にお立ちになるわけでしょう?


亀井 私がいいのか、他の人がいいのか。今から我々4派で、話して決めていくつもりです。これはあくまでも政策中心で行きます。私はマスコミがおかしいと思いますよ。なぜ批判しないのか。だって政策転換するといったってね、総裁選の後なんてしようがないじゃないですか。経済財政諮問会議がすでに決めてるでしょう。8月末には概算要求が決まるんですよ。予算こそが政治ですよ。

---そうですね。


亀井 そんなものを全部8月末に決めておいて、総裁選挙の後、どうやって政策転換するんですか。できっこないものを、政策転換すれば支持しますみたいな、そんなことは詐欺同然ですよ。あるはずがない。
 だから政策や理念抜きで、内閣改造人事だけでとにかく再選をしようなんていう談合は絶対許しません。こんなことを私どもは絶対許しません。我々は政策で協議をして、1本化するものは1本化していく。

---最近、マニフェストという言葉がはやっていますね。ただ、単に政策綱領ではなくて政権公約とするべきであるという意味があります。つまり政権についたら、こういう予算をつけていつまでにやりましょうという明確な指針を示すべきだと。それを示せば、その後の政権はどういう政権であるかということがよくわかると。


亀井 私は基本的にはそういう考え方に賛成です。それでね、今度我々が言っているのは、1つ総裁候補だけ決めるのではなくて、アメリカの大統領選挙の場合、副大統領候補も決めるでしょう。それにならって幹事長なり、最低、財務大臣まで決めていく。これを出そうとしてる。これ、明確でしょう。どういう政治をやろうとしているのか、分かりやすいと思いますよ。

---確かにわかりやすいですが、そうすると最初から統一候補を立てなければならないのではないですか。


亀井 これは今から話し合いをします。これは割と簡単に決まりますよ。


日本経済のウィンブルドン化が進行している!


---ところで2年前の総裁選挙の時、亀井さんは途中から小泉支持に回りました。その後2年経ったのですが、あの時も含めて小泉さんの政治手法はどういうふうにお考えなんですか。


亀井 「信なくば立たず」なんて言うんだけど小泉さんは逆でしょう。この2年間、私は政策協定を守ってくれと3度も直談判しましたけど、全然それはされなかった。みんなと協議しながらいろいろなことを決めていく筈だったんだけれども、一切それをやらないでしょう。だからもう、小泉さんには代わってもらうしかない。

---裏切られたという思いですか。


亀井 約束守らないから。だから私としては昨年の10月が「最後」だったんです。あの時思い切った政策転換をされていれば、我々としては支持していくつもりだった。ですから、我々としてはもう代わってもらうしかないわけです。

---小泉さんに対してはどういう政策でお臨みになるのですか。


亀井 今、民族の魂が溶けていってるんですよ。経済だけじゃないです。外交だって、安全保障だって。強いガキ大将にただくっついていっていれば、他の不良少年からやられる心配がない、忠犬ポチみたいになってる。これじゃあね、米中の狭間で日本は溶けてなくなっちゃいますよ。同盟国との間、また近隣諸国との間で、友好関係を構築しなければいけません。実施しなければいかんけど、それは独立国家としての矜持がないとね。その上での関係であって、そういう主体性が全然ないようなことをやって、厳しい国際社会の中で日本は生きていけませんよ。そういう意味では経済だけじゃない。
 経済について言えば、今、日本は第二の占領を受けている。経済占領を受けているんですよ。日本の資産がバーゲンにかけられているわけですから。産業再生機構だって、バーゲン市場になっちゃってるでしょう。市場を支配しているのは「ハゲタカ」ですよ。つまり外資です。金融機関までがどんどんやられている。新生銀行なんて、あれ、銀行ですか。国民の税金をつぎ込んで作って、10億円で売り渡しちゃった。それが今年は590億円からの利益あげてる。50倍ですよ。
 このように不良債権の直接処理を急げということで竹中(平蔵、金融経済財政担当相)さんがやっているわけですよ、アメリカのバックアップで。アメリカの命令とも言っていいでしょう。それをやればやるほど、御承知のように担保物件を叩けるようになっちゃうんですよ、結局。ですから、その市場には日本の企業は参入しない。これは日本人が悪いんだけどね。手を出さないでしょう。だから彼らの独壇場になっちゃって、もうほとんどただ同然の形で手に入っていくわけです。それを転売するという形で利益を得ているわけでしょう。
 銀行だって、りそな銀行につぎ込んだ公的資金は3兆円に近いんですよ。いわゆる国有化。これも下手したら新生銀行と同じ運命になっていく。国民の税金をつぎ込んでいったからって、財務内容がよくなるという保障はどこにあるんですか。一方では貸し出しができないようにしているわけですから。

---ハゲタカにむしり取られるだけ?


亀井 銀行というのは預かった金を貸して儲けるわけでしょう。ところが今は貸すところがないんです。貸そうと思うと金融庁がダメだと言って貸させない。そういう状況の中で、国債市場、アメリカに流れていっちゃったわけです。
 今の日本の場合、簡単に言うと、金融システムが完全に壊れちゃってるんですよ。特にひどいのは中小金融機関でしょう。これなんて、かつて中小企業、零細企業に融資をするそういう役割を持っていたんだけど、今は金融庁が怖くてできない。だから中小企業がバタバタ倒れちゃってる。経済の空洞化と一緒にさらに加速していっているような状況でしょう。ただ一人高笑いをしているのがハゲタカ。焼け野原の上で乱舞してるハゲタカです。だから第2の占領が行われているんですよ。メガバンクだって例外ではない。三井住友銀行も契約は履行できませんよ。これも外資の手に落ちる可能性がありますよ。
 今進んでいる金融改革は、サッチャー(元英国首相)革命が基本だと小泉さんは言っているんだけど、サッチャー革命の結果、イギリスの民族資本がなくなったでしょう。「ウィンブルドン現象」と言われたけど。マネージャーや従業員、行員としてイギリス人の人間を雇うだけで、みんな外国の金融機関に席巻されてしまった。今はそういう現象が日本に起こっているんですよ。小泉さんはイギリスに留学していたので何か事情があるのかもしれないけど、それを真似しているんです。何も国際金融の中で日本の銀行だけが日本企業の資金調達をしなければならない必要性はないではないか、外資金融でも構わないじゃないかという考え方なんだろうけど。私は別に国粋主義者でもなければ、民族主義者でもないけど、1400兆円というべらぼうな金融資産を持っている日本でしょう。さらに外国から金を借りてるわけでもない。そんな国の金融機関がなぜ外資のえさになっていかなければいけないんだろう。これはまさに政策の誤りと同時に、そうした第2の占領を行うことについて、残念ながら竹中さんが水先案内をやっているということですよ。

---日本は第2の英国、ウィンブルドン化が進んでいると。そのことは独立国家としての矜持をどんどんなくしているのではないかということですか。


亀井 なくしているでしょうね。それと企業会計基準なんかにしたってそうでしょう。何もアメリカがグローバル・スタンダードじゃないのに、アメリカの経済システムの企業会計基準に、なんで日本が合わせにゃいかんのですか。「ストライク・ゾーン」を急にぱっと変えちゃうような話ですよ、それは。

---ストライク・ゾーンの変更ですか。分かりやすいですね、その表現は。


亀井 ピッチャーはかなわないですよ。りそなだってかなわないですよ、あんなことをやられちゃったら。今まで日本には日本の1つのやり方があったわけでしょ。それが国際的に通用しない面は変えていかなければいけないけど、世界が全部アメリカ・スタンダードではないわけだから。

---亀井さんはかねがね日本経済、あるいは日本国家というものが、つるべ落としのように落ちつつあると言われていますね。


亀井 今がまさにそうです。

---株はアメリカと運動して少し上がりましたけど。


亀井 実体経済は違うでしょう。今のところ、力強い実体経済回復のトレンド、そんな指標なんかありませんよ。だって内需がドンドン減退していっている時に、政府までがそれを加速させてるわけでしょう。来年度も緊縮財政をやるという話でしょう。民間に元気があるときは、何も政府が手を出さなくてもいいんですよ。だけど今みたいに民間がとにかく投資意欲を失っちゃって、新しい設備投資もしない、ニュービジネスも出てこないというような時には、チョロチョロした呼び水じゃなくて、思い切って水をばっと入れないといけないと思うんですよ。それをやらずに来ているからこんな状態が続いているんですよ。今のままでいったら、秋から来年にかけて大変な話になってきますよ。まちがいなく大変になる。

---経済が、ですか?


亀井 そうです。株価だって、最終的には実体経済が反映してきますから。今の株高は、外人買いが中心でしょう。安定的に2万円あたりまで回復してくれるような実体経済を反映しているわけではありませんよ。
 今大事なことは、思い切って内需を出していくことです。1400兆円の金をいかに引き出してくるかということだよ。だから私がいつも言っているように、10兆円の真水があれば、金利がまだ安いんだから50兆、あるいは100兆の事業ができるんですよ。だからそのことを2年前、私は閣議決定までしたんだけどね。それを小泉さんがやるというから、俺、降りたんですから。

---結局、やらなかった。


亀井 外国と日本との生活環境や社会資本がイーブンの状況なら、何もこれ以上金をつぎ込まなくていいだろうという批判があるけれども、社会基盤の規模が違うでしょう。だからこの際、少なくとも欧米並みにそれを整備していくということは、むだな公共事業でも何でもない。島根県・中海の開拓なんて、あとちょっとやれば完成なのに私は必要ないと判断してドブに捨てちゃったんですよ。
 223の公共事業、2兆8000億円。自分で宣伝するわけじゃないけど、明治以降にこんなことをやった政治家おりますか?私がやったんです、政調会長の時に。それから建設大臣の時にもダムを30幾つ、全部中止しちゃったでしょう。とにかくそういうムダなことをやらないという当たり前の話なんだけれども、今起こっていることは、公共事業という名がつけば全部悪いという話です。それが政治家の資金に流れて行っているという。冗談言うなって言うんですよ。あんなものは我々の資金源でも何でもありません。
 ダメな公共事業はやらないといって切ればいいんです。今までつぎ込んでいるんだからここでやめるのはもったいないというのは違うんです。私がやったのは、6千億、ムダにしたんですよ。6千億つぎ込んでるんだからね。完成させないで途中でストップさせるんだから、それまでのがムダになっちゃうんです。それでもさらに金をつぎ込んで、ムダな事業を完成させるよりも、切るべしということを私はやったんですよ、あの時。
 今やるべきことは21世紀に向けて、孫やひ孫の時代になっても「ああ、いい国だなあ、いい町だなあ、いい村だなあ」と、そう思えるようなものを作るために、ここで思い切ってやるということは一石二鳥なんですよ。これが内需拡大につながるということ。何もこれはゼネコン相手の仕事をすることではないんですよ。例えば、電柱の地中化ということを、私はよく言ってるんだけど。

---電柱を地下に埋める?


亀井 宮澤内閣の時に政調会長代理で景気対策としてやったんですよ。反対する電力会社を説得してやった。大体5千億ベースで。これなんか大規模にやったら、東京の町、きれいになりますよ。大阪の町だって、田舎の町だってきれいになるじゃないですか。

---地中化したところを見ましたけど、本当にすっきりしてますね。


亀井 そうすれば地震が起きたって安全でしょう。電柱を取ったあとに木を植えればいいじゃないですか。緑したたる町になるじゃないですか。そういうことはゼネコンの仕事じゃない。中小、零細、その地域の建設業者です。そこに高速光ファイバーを通せばいい。韓国にうんと差をつけられていますけど、ここで思い切って取り戻すんですよ。だからこれは何もゼネコンの世界じゃないんです。ゼネコンはほとんど機能しませんよ。中小、零細、エレクトロニクスの世界ですよ。ここからものすごい内需が出てくるわけでしょう。
 それと開かずの踏切だって、東京と大阪に千ヵ所あるんですよ。1時間に10分しか開いていない。こんなものは全部普通の道路にしたらいいんじゃないですか。用地買収、いらないでしょう。掘ればいいんですから。これも中小、零細業者のやる話でしょう。ゼネコンでやる話じゃありませんよ。これをやれば、経済コストの面からも、生活利便性からもよくなるでしょう。それをやるのがなんで悪いのか。これが公共事業ですよ。

---お金はどうするんですか。


亀井 これは簡単。国債しかないです。政府紙幣を出すっていったって2重になりますから。

---日銀に出させる?


亀井 私は無利子国債を出せって言っているんだけど。

---日銀買い取りですか。


亀井 そうです。日銀引き受け。これは財政法を改正すればいいんです。そうして無利子国債を日銀に引き受けさせればいいんですよ。そして塩漬けにしとけばいい話です。塩漬けにしておいて、経済がきちんと持ち直して、税収がどんどん上がるようになってきたら、ぼちぼち返して、50年、100年かかってなくせばいいんだよ。何も10年や20年で日本がなくなるわけじゃないんですから。何もアメリカから借金するわけじゃなくて、日銀から借金する話でしょう。右のポケットと左のポケットの話でしょう。無利子で、日銀が塩漬けにする方がね、国債市場に影響ありませんよ。

---国債の価値が下がるのではありませんか。


亀井 いや、だからそれも日銀が買い入れればいいんです。買いオペをやればいいんです。そのために中央銀行があるわけでしょう。私が2年前にそのことを言ったら袋叩きにあった。そんなことをしたら国債が売れなくなって長期金利が上がるみたいなことを言われたけども、こんなものは日銀がある以上、ちゃんと操作すればいくらでもできる話ですよ。アメリカにお願いすることじゃないでしょう。中国にお願いすることでもない。ここをなぜできないんですか。それをコントロールできなかったら政府とは言えないですよ。

---なるほど。


亀井 借金を子孫に残すのはいかんなんてバカなことを言う人がいるでしょう。それこそ、そんなバカなことはないでしょう。飲んだり、食ったり、遊んだりする、そういう赤字国債を子孫に残すのは、おじいちゃんやひいおじいちゃんが楽しんだつけを払っていくことになるから文句を言うかもしれないけど。立体交差の道路だって、飛行場だって、孫やひ孫が使うわけでしょう。だから彼らも応分の負担をするのは当たり前でしょう。何も我々、苦労してただで彼らに作ってやることはないんですよ。それをやれというのは親バカですよ。各世代に渡った応分の負担をさせるだけです。これが国債です。建設国債というものなんです。

---ストックそのものを残すわけですからね。


亀井 何もむだ遣いをするわけじゃない。それが飛行場になり、新幹線に、道路になっていくということなんです。資産なんですよ。国の資産になっているということでしょう。そのことを無視して大変だ、大変だと言っているというのは、本当に、基本が違うと思います。


小泉改革は本当の改革ではない!


---亀井さんは小泉内閣について「真空」という言葉を使われましたね。これはどういう意味なんですか。


亀井 改革という名前だけ出して中身がない。そういうことです。日本をどういう国にするのか、どういう社会を作るのか。それには今の状況ではだめだ、ここをこう変えていかないと、そうしたあるべき理想の社会国家にならない。じゃあどこを直すべきか。これが改革なんです。
 それを今の小泉さんの場合は理想像というのを示していない。行き着く先を示していない。先日、新聞に出ていましたよ、1億6千万円以上の所得の者が1万人以上増えているんだそうです。逆に所得3百万円以下の人は30何万人増えているんです。今の状況で言えば、アメリカへの円安頼みの輸出に頼っているのが1部の勝ち組。また外国に工場を出して、安い労働力を使って、コスト面で外国の企業と勝負して利益を得ているところはあるけれども、その結果起きていることは産業の空洞化でしょう。
 去年1年間で外国に工場を移転をした上場企業が10%伸びているんです。伸び率10%。すさまじい勢いで外国への工場移転が進んでいるわけですよね。ということは、結局今までそれにぶらさがっていた中小、零細は仕事がなくなるわけでしょう。私の田舎でもそうだけど、ドンドン中国の工場へ生産が移っている。

---空洞化は進んでいますね。


亀井 今後出てくる問題は、雇用の問題なんですよ。勝ち組から取り上げた税金で、セーフティー・ネットと称していつまでも失業者を失業保険で食わせられるのか。あるいは生活保護でやれるのか。やはり働いてもらって給料を出すということにしなければならない。そうじゃない国家、セーフティー・ネットだけで、1部の勝ち組だけが稼いで、あとは整理して残りはセーフティー・ネットで養うみたいな、そんなことはできませんよ。
 日本は最先端技術で勝負するしかないんです。科学技術ですよ。10兆円の思い切った研究開発投資。これは施設だけじゃなくて、そういう研究者に対して思い切って金を投資していくんです。日本人は優秀なんですよ。日本に資源がない以上は優秀な頭脳を使うしかない。優秀な頭脳に対してもっと思い切って投資すべきなんです。そして彼らが生む新しい商品で世界と勝負していく。最先端部門で勝負をするしかないと思うんですよ。それについてはどうしても国内の工場でやることになると思いますよ。最先端部門のものを最初から中国に持っていくとか、そんなことにはならないんです。それと社会資本整備。生活関係の整備をしていくことと併せて、同時に思い切ってやっていくんです。それによって空洞化を防いでいく。頭脳で勝負するしかないわけですから。
 その先に来るのはどういう社会かというと今のようにサラリーマンが3LDKのマンションで我慢するのではなくて、4LDK、5LDKに住んで、プール付きのセカンドハウスを新潟でも群馬でも北海道でもいいからちゃんと持って、そういう社会を目指していく。そして東京にいるのは月曜から金曜日まで。土日はそういうところで過ごす。また長期休暇。私はこれを政調会長の時に取り入れて始めました。欧米並みに2週間か3週間の長期休暇を緑したたる田舎で交代でとって。何も別荘でなくてもいいんですよ。そこで家族と一緒に過ごす。夏祭り、秋祭りで、そこの村の子供と一緒におみこしを担ぐというような。そういう生活を都会に住んでいる人たちもやっていく中で、やはり日本人の心の豊かさというのが生まれてくると思います。
 それと私はいつも言っているのだけれども、芸術と文化と産業が融合した社会でないとダメと思うんですよ。工場がドンドン隣接して、そこで生産活動をやってそれを売りまくって金が入ってくる、そういうものは長続きしないですよ。芸術と文化の下地の上で産業が繁栄していくという状況でないと、そこで働いている人の心自体が豊かになっていかない。イタリアとかフランスなどは日本より所得水準は低いですよ。低いけれども、ある程度安定した生活をしています。これはやっぱり文化なんです。

---確かに文化は豊かですね。


亀井 長い長い文化なんですよ。あるいは芸術なんですよ。ある面ではファッションという形でこれも産業化されているわけだけど。日本だって古くからそういう文化があるわけですから、そういうものをもっとみんなが身近に楽しむ、自分が楽しむ、生活の中へ取り入れていくということを思い切ってやっていかなければならない。
 デザインの分野だって、外国車の真似をするというのではなくて、外国から見たら日本人の感性を感じさせるようなものを作っていく。日本列島で何千年も養ってきた日本人の感性が生きているようないろいろなデザインが必要です。車だけじゃない。洋服などファッションもそうです。そういうものを生んでいくということが、世界の中で我々の商品をドンドン売っていく1つの力になると思います。
 自慢話で言うわけじゃないけど、私が政調会長の時にやったことは、2千5百億円の文化予算をつけたことです。これは文部省や文化庁から要求があったわけでも何でもない、私主導でやっちゃったんです。その中の1つを言いますと、18の交響楽団に毎年、1億円の金を国から出すようにした。その際、条件をつけるな、何に使ったっていいと言いました。18億円。バイオリン弾きもね、結局奥さんの内職に助けられて、共稼ぎでどうにかバイオリン弾きをやっているんですよ。

---バイオリンだけでは食えない?


亀井 だからそれに対してきちっと補助する形を作った。また、これはまだ実行していないのだけど、ウィーン・フィル(ハーモニー管弦楽団)が来日しても東京、大阪公演をしたらすぐに博多に行っちゃう。広島のど田舎には来ない。浪花節しか聞いたことがない、じいちゃん、ばあちゃんにウィーン・フィルを聞かせろと言っているんです。そうすれば、文化の融合、日本人の頭脳がそこで触発されて花開いていくんですよ。それには金がかかわるわけです。そういうのをちゃんと補助しろということでね、やらせるようにしてるんです。

---文化・芸術はぜひどんどん発展させてほしいですね。


亀井 文化庁もそれまでは「金と力はなかりけり」だったから、私が勝手にやっちゃったんですよ。今からは文化政策にうんと力を入れる。それから勲章制度が今年の秋から変わるでしょう。これは私が政調会長をやっている時に提唱したんです。米も1等米、2等米がなくなった。日本酒も1級酒、2級酒はなくなった。それなのに人の人生に1等、2等、3等などの等級をつけるとは何事だと言ったんです。だから等級をはずせって私が言ったんですよ。
 美空ひばりや石原裕次郎に勲2等をやるならまだいいけど、1回か2回大臣をやったくらいで、ろくな仕事もしない政治家に勲1等っておかしいじゃないかと。これはね、法律事項じゃないんです。天皇大権事項だったんです。恐れ多くも天皇大権事項なので誰も手をつけなかった。私はね、不忠かもしれないけど政調会長の時に天皇大権事項に手をつけた。我田引水ですが、こういうことを改革って言うんですよ。小泉さんの言っていることは、結局、改革といったって口先だけではダメなんです。どういう社会を目指しているのかをピシっと政治の目標に置いて、そのためにはどういう政策をやっていくのかということでないとダメなんですよ。

---東大の佐々木毅総長が小泉さんについてこう分析してました。本来、骨抜きではない骨太の改革を作るべき経済財政諮問会議も小泉内閣としての明確な基本方針がないから、結局党内のいろいろな荒波にもまれてどうにもならなくなってしまっている。ちゃんとした小泉内閣としての方針があれば、こんなに骨抜きにはならないだろう。それが第1点、。
 第2点として、やはりこれから総理大臣になる人は、なってから準備をするのではなくて、なる前にちゃんと準備をしておかないととてもダメだと。この2点でしたが、亀井さんはどうお考えですか。


亀井 小泉さんは首相になる前、政策なんて考えたことない人でしょう。私も長いつきあいだけど、部会なんか出たこともない、あの人は。政策の議論なんかしたことないんですよ。

---そのことはよく聞きます。


亀井 正月に我々と総裁選でテレビ討論をした時だって、あの人、改革の中身は何ですかと聞いても何も言わないんだもん。

---郵政改革とか。


亀井 あれぐらいでしょう。郵政の民営化くらい。あとは何もない。

---政治・経済全般から芸術文化の話題に至るまで、いろいろ伺いましたが、これがまさに今回の総裁選にあたってのマニフェストの一端になるわけですね。


亀井 統一候補を誰にするかわかりませんけども、私がなるかどうかわかりませんから。しかし、私はやはりきちっとした政策を、そのプロセスとともに出していきたいですね。

---確認しますが、もし亀井さん1人になってやれと言われたら当然出ますね。


亀井 やりますよ、それは。

---やりますね。前回みたいに途中で降りたりはしないでくださいね(笑)。


亀井 前回はしょうがないでしょう。だって党員が、圧倒的だった。参議院選挙が控えていなければ、本選挙でひっくり返したんだけど。党員が圧倒的に支持している小泉さんを国会議員の選挙でひっくり返しちゃったら、それでは参議院選挙ができない。

---あのときの総裁選挙はいわゆる総取り方式でした。今度はこれが変わりますね。


亀井 ドント方式ですか。総取り方式の方が我々には有利ですけどね。地方の票は小泉さんには行かないから。全部取れちゃうから。

---そうすると総裁選挙は予定通りやるべきだと。それから内閣改造はその後にあるのでしょう?


亀井 それは新しい総裁が決めることです。さっき言ったように、1部の陣容を示して総裁選をやりますから、それを軸にして挙党態勢でやる。

---総選挙に関して、今のところ公明党の意向に従って10月とか11月とか言われていますが、もし亀井総裁が実現したらどうしますか。


亀井 国家目標をきちっと示してやりますから、それのプロセスとして何をやるかということです。1つは今決まりつつある概算要求。あれをひっくり返さなきゃいけません。財務省の連中にはムダな仕事をするな、どうせひっくり返すんだからと言っているんだけど。それで秋の臨時国会ではとりあえず補正予算案を出して景気対策をピシっとやる。さらに来年度予算編成をきっちりやって、景気をきちっとして。それと教育基本法です。これは大事ですよ。

---教育基本法改正はどの国会でやりますか。秋の臨時国会ですか。


亀井 それは臨時国会です。だって答申が出ているんだから。そういうものをきちっとやって、それで解散。来年以降ですよ。

---予算をちゃんと成立させた後。


亀井 そう、そう。できれば私は選挙制度も変えたいと思っているんです。せめて都市部だけでも変えたい。今みたいなことをやっていたら、代議士もダメになります。やっぱり自民党同士で激烈にやって勝ち残った者が出てくるようにしないとダメです。

---都市部だけ中選挙区制にして、他は小選挙区?


亀井 とりあえずね。

---そうすると解散総選挙は亀井総理総裁の場合は同日選挙ということですか。


亀井 来年の予算が成立してからタイミングを見ればいいでしょう。同日選挙でもいいし、あるいはその前にやったっていい。とにかくきちっとした光を国民に当てること。だって、我々は選挙をやるために政治をやっているわけじゃないですから。選挙というのは民意を問うためですから。民意を問うに足りるものを提示しなきゃいけないですよ。今みたいに、何が何だかさっぱりわからん、解散さえすればいいみたいな、こういうのはまさに邪道ですよ。

(平成15年7月7日)

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