活動実績

新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2003.8.1◎月刊「経営塾フォーラム」8月号
第193回 経営塾フォーラムから
日本の伝統的経営に立ち返って日本経済を再生せよ

【講師紹介】

今日の講師は亀井静香さんです。先日、中曽根康弘さんに会いました。その時に中曽根さんは「小泉総理は人の使い方を知らない」と言っていました。小泉政権は、女性四人を大臣にしたり、学者を金融財政大臣にしたり、格好はいいですが、実行力となるとまったく通用していません。少し邪魔になるくらいの人、たとえば亀井さんを財務大臣にするとか、野中さんを外務大臣にするくらいの人事が必要でしょう。
 小泉さんは公約違反もずいぶんしています。靖国の参拝問題、一内閣一閣僚と言って田中外務大臣をやめさせ、国債30兆円枠もすっかり忘れてしまっている。構造改革とか不況対策がまったく実行されていないんです。国民がいちばんつらいところです。石原都知事にせよ、亀井さんにせよ、もう交代してもいいのではないか、という声も当然出てきます。
 いまの国政をどう変える必要があるのか。亀井さんならどうやって日本を立て直すか。その辺の話をぜひ聞かせていただきたいと思います。(針木康雄)


米国に追従する日本

 私が、いまいちばん心配にしていることは、強者の論理が、世界中を覆ってきているのではないかということです。強者が、自分たちだけの利益、立場だけを考えて政治的にも経済的にもその自らの力を制御することなく行使するという状況が進んでいった場合、はたして世界や日本はどうやっていくのであろうかと心配せざるを得ません。
 私はこの一月に講演を頼まれて米国に行った時、アーミテージ氏をはじめホワイトハウスの要人など20名近くの人に会いました。その時の講演で、イラク問題について強い自制を求めました。しかし、当時は戦時態勢のような感じで、これを止めるのはなかなか困難だと感じました。私が強く言ったのは、米国がよかれと思っていても、世界の人たちの支持と共感を得ない場合は、世界のためにならないことはもちろん、米国自身のためにもならないということでした。日本も努力をするけれども、米国自身が支持と共感を得る努力をしてくれなければ困る。米国の発言、主張が、一国の利益だけではなく、世界中で一所懸命生きている国家民族の立場も考えたうえでいろいろな政策を主張するということでなければならないと話しました。
 しかし、残念ながらイラク戦争が行われてしまった。日本もイラク新法を延長国会で上程することになっています。イラクのことについて言えば、戦争が起こってしまった以上、同盟国である米国との関係において日本も実行あるサポートをするのは当然だと思います。しかし、その場合、日本も法治国家ですから、憲法との整合性に照らし合わせる必要がある。ムードに流されてイラク支援の態勢を取ることは危険ですし、間違いだと思います。
 いまの日本は、残念ながら主権国家としての判断に基づいて行動するという点が欠如しています。簡単に言いますと、喧嘩の強いガキ大将に黙って付いていけば都合がいいし安全だ、ほかの不良少年からやられる心配がないという、きわめて安易な状態であると言えます。
 北朝鮮問題にしても、米国という絶対的な軍事力をもっている強い者にただくっついていて、はたして日本の安全が守れるか、拉致問題がきっちりと解決できるのか。私は無理だろうと思います。米国と日本は、北朝鮮との関係において全く違った立場です。米国にノドンは飛んできません。米国自身が、北朝鮮から安全保障の面で脅威を受けているわけではなく、拉致問題もありません。それに対して日本の場合は、ノドンが射程距離に入ってます。また拉致問題でも、あの5人の方々が幸せになればいいということではなく、ほかにも多数の方々が北朝鮮にいる可能性があります。一人でも多くの方を救出するには、どうすべきかという問題を抱えているのです。
 そういう時に日本や韓国を抜きにして米朝協議が再開しました。これは北朝鮮から求めた話です。日本は、なぜブッシュ大統領に対して「日本と韓国を入れないような交渉には応じるな」と言わなかったのか。米国以上に日本は北朝鮮との間で深刻な状況にある。当事者である日本や韓国を入れないで二国間で協議をすることはとんでもないと言うべきだった。
 米国はイラクを退けた圧倒的な軍事力を持っていますが、在韓米軍3万5000人を犠牲にする、ソウルを火の海にするという覚悟をしないかぎりは現実的なカードになり得ません。アーミテージ氏ともこの点では意見を一致しました。それに対して北朝鮮がなぜ拉致、安全保障も含めてこうしたアプローチをしてきたか。経済援助が欲しいということに尽きる。いままでもインフォーマルに日本の経済力のおかげで北朝鮮はやって来たという現実があります。今後、交渉が妥結した場合、どこが彼らの欲している経済援助ができるか。米国はほとんどしないでしょう。日本と韓国しかありません。北朝鮮との関係において、もちろん背後には軍事力も必要ですが、現実には経済力こそが最終的なカードになり得る。
 いまの日本政府には国家主権をどう考えているかという基本的なスタンスが見えない。
 サミットでブレア首相に「拉致問題はどうやったら解決したことになるのか」と聞かれたら、小泉総理は言葉を濁してお答えにならなかった。この答えは、日本が見つけるものです。ノドンを放棄しなくても米国には関係ないことですから、思い切った経済援助を含めて、拉致問題を全面解決し、ノドンの脅威から身を守るという交渉は、まさに日本自身が北朝鮮との間で進めていくべきだと思います。  また経済の面においても、米国に追従しようとしている。20年前、日本は米国を抜いて世界一の経済大国になった。ところが、この20年間、日本は世界一の経済大国の座を自ら捨て去ることをやって来た。日本なりの経済の仕組み、企業会計含めて日本自らの仕組みの中で培ってきた伝統の中で、日本は頑張って世界一になった。ところが、この20年間は、日本的なものを捨て去ってアメリカの経済システム、アメリカン・スタンダードをグローバル・スタンダードと言い換えて、世界一の国が世界二位の仕組みの真似をしてしまった。マスコミもそういう方向を支持し、政治家もそれに対して無抵抗のまま現在までやってきた。
 小泉総理の失政が今日の経済の停滞をもたらしている大きな原因ですが、それだけが原因ではない。むしろ小泉政権があらわれたのは、この20年間、我々が間違った方向でやってきたことの結果であると思わざるを得ない。この秋に小泉政権を終わらせたからといって、それだけで日本経済が再び活力を持つ保証はどこにもない。

日本は世界一の資産国家

 なぜ日本式の経営をかえなければいけないのか。ほんとに不思議でしょうがないです。企業としてのエネルギーを蓄えて、目先の株価とか配当ではなく、中長期的に株主に対して責任を果たしていくというのが、日本経済の特徴であったろうと思います。極端な言い方をすれば、米国型は従業員や取引先は株主に奉仕するための道具にしかすぎない。米国の一部だけを真似して、景気が悪くなって業績が落ちてくると人件費削減、リストラ、下請けを切る。もっと安く納入してくれるところはないか、もっと安くつくってくれるところはないかと単価をぐんぐん切り下げる。それも限度になると中国に工場を出したほうがいいと海外に逃避していく。去年一年間で上場企業が海外に工場移転をした伸び率10%です。国内のそうした空洞化がいま激しく起きています。
 好景気、不景気はあります。歯を食いしばって、余剰人員が出そうであれば、新規部門に思い切った技術革新への研究投資をする。そうして新製品を開発する。それが日本を世界一にしたんです。いまそういう努力、チャレンジをしないで、切って切って切りまくっていくことによって当期利益を出せばいいという、きわめて退嬰的な経営姿勢に多くの経営者がなっています。
 私は東レの前田勝之助会長とよく話をします。前田さんは「縁あって東レに入ってくれた社員、縁あってうちと取引をしてくれている取引先、こういう人たちを幸せにしないで東レが金を儲けたってしょうがないでしょう。うちも外国の工場を出します。しかし、それによって日本人が幸せにならなかったら意味がないでしょう」とおっしゃる。こうした凄まじい経営者魂を20年前の経営者はもっていたんです。旭化成の宮崎輝さん(元会長=故人)も「企業というのは、いつも健全な赤字部門をもってなきゃだめだ。全部黒字は先がない。将来芽が吹くであろう、しかし、いまはどんどん赤字を出している。そういうものをどう抱えて育てていくかということが企業経営のポイントだよ」とよくいっておられました。そういう凄まじい経営者が、当時日本経済を世界一にもっていった。
 いまのように後ろ向きのことしか考えない、当期利益をどの程度出すかということしか考えない、そんな経営者ばかりでは、日本経済は再び栄光の日を迎えることはあり得ないだろうと思い ます。私が提案している経済政策は、そういう認識が前提になっています。いま爪がなくなっている民間企業に、木に登れといっても無理です。それをあたかも登れるがごとき錯覚にとらわれて経済政策をしたら大間違いです。ちゃんと爪を伸ばしてもらう必要がある。爪を伸ばして一気に登るという気持ちを民間にもってもらうには、政府が前に出なきゃいかんといっているんです。これ以外現実的な方法はない。
 いま日本がやらなければならないことは、内需の拡大です。円安でアメリカ向けの輸出に頼って日本経済を再び復活させるなど、他力本願なことではない。日本は痩せたりといえども世界第二位の経済大国です。しかも、1400兆円という世界の貯金の六割をもっているたいへんな資産国家です。日本は、国民の幸せのために頑張らなくてはいけませんが、そのことだけ考えていればいいという立場ではありません。アジアやアフリカ、世界の人たちの幸せのためにも、働かなければならない。この日本で内需を思い切って拡大することによって、アジア、アフリカ米国など諸外国からものを買う。日本経済が躍動することによって世界経済を引っ張っていけるんです。米国の経済が悪くなれば世界経済が悪くなります。第二位の日本が世界経済を引っ張る役割を果たさなければ、世界経済がたいへんな事態になる危険性がある。そういう視点に立った経済政策をやらなければならない。ところが、世界経済を見る視点が財務省には全然ありません。算盤勘定だけの財政政策をやっているから、日本自身までも深刻な事態に立ち至っています。
 いま国民所得は500兆円を切り、この一年間、税収が10兆円も減ってもう40兆円ぐらいしかありません。このままでいけば借金のほうが多くなる。借金を増やすまいと緊縮財政にこだわったために国民所得が減り、逆に借金まで増えた。こういう事態の中で日本経済自体が落ちたんです。
 これが構造改革だとすればたいへんな話だと思います。ご承知のように産業の空洞化が、すごい勢いで起きています。日本が金融国家で生きていけるのでしょうか。金の貸し借りで日本が生きていくことができるわけありません。産業経済省が通商白書で通商国家で生きていくということを書いていたようです。現代においてアメリカと中国の間に立って貿易国でやれるはずがないです。結局は20年前のように、第一次産業、第二次産業、バイオを含めて、思い切った技術革新をどんどん進め、そこに官民あげて思い切った投資をして、新しい商品で勝負していくしかない。日本は先端技術を誇る文明国家ですから。国内が新しい商品をまず吸収して、それが世界に及んでいくでしょう。そのためにどうするかが、今後の課題だろうと思います。

間違った政策を転換せよ

 それはいまの基本的に間違っている政策を大きく転換しなければ、もうどうしようもありません。ところが、我々国会議員はそう思っていても、いま政治がそれを無視している。財政諮問会議が、来年度予算の枠組みを事実上全部決めてしまうという話です。そこには厚生労働大臣も入っていなければ、国土交通大臣も入ってない。財界人や学者など、いろいろな人が入っていますが、相変わらずの緊縮財政です。民間が駄目なときは、呼び水が必要です。それもちょろちょろとした呼び水じゃだめです。いまの小泉政権のやっていることは、亀井静香の主張した緊急経済対策の真似だけです。しかも、遅いし規模が小さい。思い切った呼び水を出す、1400兆円の眠っている資産を市場に出していくことができるかどうかが、景気対策の分かれ目だと思っています。
 それには社会資本整備、生活環境整備、技術革新への研究投資、これらを思い切って政府がやるしかないと思います。主税局長が税制について私のところに相談に来たので、思い切って研究投資減税をやれと提案しました。すると、「減税の対象がない」と言うんです。いま大企業は、工場も海外へ出して、研究開発まで海外に委託しているというんですよ。私は唖然としました。そういう民間の体たらくの状況で政府が出なくてどうする。思い切って政治家が決断すればいい。
 不必要な公共事業を行ってはいけませんが、いまの日本、生活環境を整備したり、社会資本を整備したり、防災の観点からやらきゃならないことはたくさんある。たとえば東京、大阪だけで開かずの踏切が1000ヶ所あります。こんなのは道路と言えませんよね。ただ金だけをかければ、どうせ閉まっているんだから、順番に閉じていって掘ればいい話です (笑)。
 宮沢内閣の時、景気対策として、5000億円ぐらいで電線の地中化をやりました。当時、東京電力、関西電力が抵抗しましたが。あなたたちだけに金を出させない、国も出すからということではじまった。5000億円以上の規模でやっているでしょう。これなんか何兆円規模で一挙にやったらどうですか。電柱をなくしただけでどれだけ道が広くなるか。防災の観点からだってそうでしょう。
 私がこういうと、すぐ財源はどうするんだという話になる。亀井に任せたら借金まみれの国になるんじゃないかと言う。前回の総裁選挙で私が主張した時、財源論でものすごい批判を受けたんです。小泉さんは逆だった。緊縮財政、入るをもって出ずるを制すでやるべきだと。しかし、間違いだということが、すでに証明されていますね。
 日本は、借金国家ではありません。世界一の債権国家です。米国には300兆円以上金を貸しているでしょう。日本人の貯金が産業資金に回らずに、米国の国債を買って、いまもどんどん米国へ流れているんです。日本は、中国に対しても2000億円以上貸しています。別に外国から借金しているわけじゃない。日本は世界に対してたいへんな債権をもっているんです。ただ日本国内において政府が貧乏で民間が金を持っているという状況です。
 国債を発行しすぎると消化できなくなることも事実です。小泉総理はこの間おかしなことを言っていましたね。国債をどんどん出して景気対策をやったら、長期金利が上がるというようなことです。日本の仕組みの中でそんなことが簡単に起きるのか。日銀という中央銀行があるんです。国債がなかなか消化できなくなって、銀行も買わなくなってきた場合、日銀が市場から買い込めばいい話です。いよいよのときは、直接日銀が政府の借金を引く受ければいい。これは財政法を改正しなければいけませんが、同じ国の中で右のポケットと左のポケットの話であって、将来景気がよくなって税収がどんどん上がってくるようになれば、それをぼちぼち返していけばいいんです。なにも5年、10年で返すという話ではありません。
 いまの借銭は確かに多い。しかし、それは何十年もかけて減らしていけばいい話で、すぐ借金取りが外国からくる話じゃない。日銀との関係であれば、こんなことは経済に影響を与えず、市場の金利に影響を与えないで操作することは簡単な話であって、それができないといったら国家じゃないと宣言するのと同じです。

日本人の魂を取り戻せ

 いまの日本の金融システムは崩壊してます。国有化を進めて外資に委ねても、日本の金融システムが健全化するものではありません。基本が間違ってます。日本には日本の金貸しの伝統がある。何も米国に合わせる必要はありません。  その昔、中小企業の経営者に対して、信用金庫や信用組合は、貸した金は返してもらってないけど、この親父は信用できるから貸そうと言って貸していたんです。それを貸した金がまだ返ってないのに金を貸すとは何事だ、この理事長はけしからん、おまえの信用金庫はつぶす、となっている。
 それで日本経済がよくなったのか。中小企業や零細企業の金回りがうまくいくようになったのか。全然違います。各金融機関がきちんと役割を果たせる形を目指すためには、どこを改善するべきなのかという観点から金融改革をするべきです。外国で資金調達をしない田舎の信用金庫や信用組合、あるいは地銀に対してBIS規制みたいなものを課し、だめだと切り捨てる。そこには情はありません。
 彼らも悪意ではなく、仕事熱心なんです。役人というのは、全部を見ないで与えられた権限、与えられた法律のもとで一所懸命仕事をする。しかし、その結果、国民が困るという状況になっているんです。
 ちまちまとした経済政策やその時だけの景気対策では無意味です。我々が美しい日本人の魂をどう取り戻していくかという作業に取りかからなければ、日本は絶対に再生できないだろうと思います。

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