活動実績

新聞・雑誌等での亀井静香の発言

戻る

2005.6.1◎財界人2005年6月号
国家戦略欠落の政治救国内閣樹立を急げ

衆議院議員 自由民主党元政務調査会長 亀井静香
聞き手・本誌主幹 田崎喜朗

中国・韓国・北鮮からのいわれなき抗議・反発行動が度重なっている。拉致問題では横山めぐみさんの遺骨が偽物だったなど、不誠実な対応が続く。経済では、アメリカを主とする外資による日本企業のM&Aが進んでいる。日本が軽んじられている状況をこのまま黙って許していいのだろうか。まさに今、日本を救う政治が求められている。そこで、亀井静香・元自民党政調会長に、今の日本の現状と政局に対する熱い思いを語っていただいた。
(収録日・3月28日)


アメリカによる経済支配を唯々諾々と受け入れている日本


田崎 本日は、何としてでも亀井先生の憂国の熱い思いをお聞かせ頂きたいと思い参上しました。
 ご存じのように、政界も経済界も先が見えない閉塞感が充満しており、このままではいけません。小泉内閣はこの際、早く引いてもらったほうが良いのではないかと思うのです。
 一番心配なのは経済です。企業も個人も弱者は非常に苦しんでいます。大企業では良い決算を出していると言われていますが、多くの中小企業は依然として厳しい環境下であえいでいます。政治が強いリーダーシップを発揮して、少しでも経済状況が良くなることを国民は望んでいるのです。
 ですから今こそこの日本には亀井先生のような明晰な頭脳と強力な行動力を伴うリーダーシップが必要ではないかと思うのです。外交に関しても、北鮮問題、竹島問題、東シナ海ガス田開発など、なぜ、主権国家として毅然とした態度ができないのだろうか。この辺りも非常に大きな問題だと思います。

亀井 先日から小泉総理の本当の気持ちなのではと感じているのは、「郵政民営化が実現すれば奇跡だ」と言われていることです。奇跡というのは起きないことが起きることです。それなのに一国の指導者が「奇跡を起こすんだ」と言うこと自体、独裁者のような気持ちになっているのいるのではないかと思います。
 政治というのは、奇跡をおこすようなものではない。人間の営みを現実的にどう整えていくかということです。「奇跡を起こすんだ」と、国益があるかどうかも分からない郵政民営化を行う心情は普通ではない。

田崎 全く理解できないですね。今、必要なことは景気対策で、生活に苦しんでいる国民を救うことが第一だと思います。

亀井 昔から「内憂外患こもごも至る」と言いますが、まさに今がその状況だと思います。日本は、政治的にも経済的にもかつて世界の勇といわれた面影を失いつつあります。
 バブル経済が崩壊する前には、ロックフェラービルを買収し、エンパイアーステートビルまで買おうとしていたのです。戦争に敗れた日本が、勝ったアメリカを超えて劇的経済発展をとげ、経済的に貧しい世界の国々に対してODA(政府開発援助)も行ってきた。
 外交的には侮辱を受けながらも何とか独立独歩でやってきましたが、アメリカ以外にロシア、中国、韓国、北朝鮮からも平然と軽んじられる状況はなく、今ほどひどくはありませんでした。
 今の日本は経済的にもアメリカの一州以下の扱いでアメリカ経済に組み込まれているようなもので、日本人が稼いだお金の内、400兆円もアメリカに貸している。言葉は悪いかもしれませんが、経済奴隷ともいえる状況になっています。
 しかも、経済の仕組みまでもアメリカに合わせることが、「構造改革だ、グローバリゼーションだ」と言って激しく進んでいる。アメリカが日本で商売するのに都合のいいように、日本は経済の形を改めているのです。「今の状況は植民地支配だ」と先日、ある会合でも言いました。イギリスやフランスが昔、植民地支配をしていたときでも、支配する国の伝統、文化、生活様式をある程度尊重していたのです。しかし、今、日本で進んでいることは、日本古来の伝統、文化をかなぐり捨てて、アメリカ的文化の中で経済活動をはじめあらゆる活動をすることです。
 これは、アメリカが支配したというよりも、知的攻撃に対して日本が唯々諾々とそれに屈している側面の方が強いと思います。日米講和条約で日本は独立したと言われるけれど、日本人のDNAをアメリカ人のDNAに入れ替えていくという大作業が意思的になされて、政界、財界、官界、マスコミ界などすべてにおいていろいろと変形されていき、その結果が今の姿なのではないでしょうか。


ポスト小泉に求められる悪しき流れの方向修正


田崎 その通りだと思います。日本人はもっと危機意識を持って各国との経済関係、外交問題に取り組んでいかなければいけませんね。しかし、もはや猶予できない状況にまで日本は追い詰められているのではないでしょうか。やはり、この流れを断ち切るためにも小泉総理には引いていただいたほうがよいかと思われます。

亀井 この問題はいろいろな要素が絡み合って起きていて、むしろ、小泉総理はその流れの結果として誕生したといえるでしょう。ですから、小泉総理が交代すれば簡単に決着がつく問題ではありません。しかし、交替が遅くなるほど状況は進み、よき日本の姿に戻れない、取り返しのつかないことになるとも考えられるのです。
 平成15年の総裁選挙に私が立候補したときには、「活力・自身に充ち、自国に誇りを持ち、日本の伝統・よき習慣を大切にして、世界から尊敬される国にしよう」と訴えましたが、藤井孝男氏、高村正彦氏共々破れました。平成13年に利口補した総裁選挙でも、橋本龍太郎氏、麻生太郎氏共々党員や国民から当選するほどの支持を得られなかった、という経緯があります。
 日本の伝統・習慣を大事にしながら進んでいこうということが拒否され、アメリカの精神的、経済的支配を今後とも進めていく路線を継承した小泉総理が再選された。そのために、この悪しき流れが続いてしまっているのです。
 世の中全体を覆うこの大きな悪しき流れを変えていくには、アメリカとぶつかる場合もあるだろうし、他の国とぶつかる場合もあるだろう。しかし、それをうまく対処しながら友好関係を維持しつつ、日本を独立国家としてこれまでのよき伝統・習慣を守っていく方に向かわせる必要があります。この舵取りという非常に難しい課題を、ポスト小泉には求められると思います。


国家戦略欠落のため各国からの侮辱行為続く


田崎 弊誌5月号の「時流」でも書かせてもらいましたが、今の日本の政治には国家戦略というものが欠落しているのです。独立国家なのですがら、国家戦略は持たなければいけません。このままの状態でいけば、遠からずしてアメリカの一州となってしまう。もしくは、中国の属国になってしまいますよ。

亀井 国益を守るために国家戦略を持つことは非常に重要です。竹島問題では韓国が日本を激しく批判したことをとんでもないと言う人がいます。しかし考えてみれば、日本がこれほどアメリカの言うことを唯々諾々と受け入れている状況に対し「こんなことではいけない」という気持ちが起こらないことを恥ずべきなのです。むしろ韓国の態度を見習うぐらいの気持ちがないとおかしい。
 今、日本は経済がしぼみ、心自体もしぼんでしまっている。しかし、幕末、アジアの他の国々が植民地にされていくなか、侵略国より軍事力では劣っていたにもかかわらず跳ね飛ばすことができたのは、日本に魂の力があり、「侍の国、日本を支配するのは不可能だ」とあきらめさせたからです。
 ところが今、日本は、アメリカの言いなり放題、そしてまた拉致問題、竹島問題、東シナ海ガス田開発、北方領土問題などで各国から侮辱を受けている。この状況をなんとも思わないこと自体、問題なのです。

田崎 かつて日本人が抱いていた誇りや魂はどこにいってしまったのでしょうか。このところマスコミを賑わせている中国や韓国の強硬な抗議や行動に対して、なぜ、独立国家としてきちんと権益を主張しないのでしょうか。

亀井 東シナ海ガス田開発については先日、町村外務大臣と中川昭一経済産業大臣に「なぜ、日本領土側から試掘しないのか。開発許可が出ている会社はないのか」と詰め寄ったのです。そうしたら、「3社出している」と言うので、「それを認めればいいじゃないか。中国も掘るが、日本でも掘る。同じガス田を掘り合うのだから、技術力が高い日本のほうが多く採掘できるだろう。そうなれば、中国側も困って、共同開発をしようなどの妥協を提案してくる。今のように中国側の対応を抗議しているだけでは前に進まないじゃないか」と言いました。
 3月28日の新聞に、中国がこのまま地下構造に関するデータ提供を拒否し続けるのなら、試掘権の設定を検討する政府方針が載っていましたが、対応が遅いですよね。昨年10月にデータ提出を求め、中国がそれに応じなかったのを今まで待っていたのですから、こういったことは直ちに対処しなければいけない。
 竹島の問題は、領土より漁業権の問題なんです。日本側の領有権をきちんと主張して、漁民の権益を守っていくことをしないで、領有権問題として竹島について議論していても解決しません。
 これらを考えても分かるように、国土や国民の権益を守ろうとしない、全体主義的な人が多くなってしまったのです。


ライブドアの敵対的買収で日本経済に”神風”吹く


田崎 国家戦略欠落による弊害は、領有権問題しかり、経済問題しかりですよね。ところで、アメリカによる経済支配はこのまま進んでいくのでしょうか。

亀井 今、連日のように報道されているライブドアに・amp;るM&A(企業の買収・合併)は、外資が絡んだ敵対的買収の危険を世間に知らせ、危機感の薄かった日本企業に警鐘を鳴らした意味は大きく、私は「神風が吹いた」と言っています。
 ライブドアは米リーマン・ブラザーズ証券を引き受け手とするMSCB(下方修正条項付き転換社債)を発行することにより、買収のための資金800億円を調達した。するとマスコミは、外資が日本企業を買収するというので大騒ぎを始めたわけです。しかし、それ以前も外資による日本企業の買収は続けられていた。それに対しマスコミは。「自由主義経済だ、グローバリゼーションだ」と、応援していた。ところが、火の粉が自分たちに飛び込んできたため、大変なことだと気づいたわけです。そういう意味で「神風が吹いた」と思っている。
 しかしなぜ、我々日本人が英知を傾けて、汗を流して創り上げてきた会社が、一瞬にして外資が入ってきて経営権まで握られてしまうようなことを許さなければならないのか。
 いわば乗っ取りなんですから、それに対して「はい、結構でございます」と言うのは、今の日本人は腰が抜けているのではないか。

田崎 全くその通りだと思います。誇りを持って、反発しなければいけませんね。

亀井 政府は当初、外資が自社株の交換によって日本企業のM&Aを行えるようにする改正社会法案を今国会に提出し、来年から執行する予定でした。
 それを知り、私は「外資による日本企業のM&Aを容易にするなんてことを許していいのか」と意見し、また志師会を中心に自民党内でも危険視する意見が出たため、自民党法務部会3月11日、法律執行後1年間、凍結することを決めたのです。また、党に検討部会を設けることにした。これも危なくすんなり通って、執行されてしまったかもしれないのです。
 こういう問題に関して、経団連は何をしているのだろう。外資のろう断を許している日本経済を本当に素晴らしいと思っているのか。大事な企業防衛をどうするかについて、経営団からの意見や行動は全く出てこない。

田崎 会員企業を守るのが経団連の役目なのに、外資による乗っ取りに対してのん気に構えているのでは、全く役に立っていません。

亀井 日本企業はイギリス企業のおかれた状況と同じになっているのです。イギリスの場合は英国病にかかって、どうすることもできなくなったため、同じグロサクソン系のアメリカに国を売り渡したわけです。
 しかし、世界の貯金の6割を占める1400兆円の金融資産を持ち、アメリカに400兆円も貸している日本なのに、なぜアメリカ経済の傘下に入らなければいけないのか。お金を貸している国が、借りている国に支配されるというばかげたことを、日本は唯々諾々と受け入れている。
 先日、お茶の水女子大学の藤原正彦教授に話を聞く機会があったのですが、今のアメリカ支配を招いた原因の一つは、アメリカ留学組が経済学者や経済記者などの要職に長い間、就いてしまっていることだと言われていました。彼らは、「アメリカ型経済が資本主義のあるべき姿だ。それと比べれば日本は遅れているから、追いつくべきだ」と言って先導しているとのことで、私もこれには同感です。ひどい状況になったと思いますよ。

田崎 そうですね。大体、アメリカ型経済は日本の土壌に会わないものが多いと思います。日本は、9割以上を中小企業が占めているという独特な経済事情があるのですから、アメリカの仕組みをはめ込もうとしても、そっくりそのまま合わないのは当然です。

亀井 そうです。また、ほどんどのマスコミは外資による日本企業のM&Aに関して取り上げようとしない、といいうことも作用しています。広告をもらうために外資を刺激してはいけない、という自制が働くのです。しかし、マスコミが取り上げなければ、政治家に危機感を持たせ、行動を起こさせるプレッシャーを与えることができないのです。
 先日、中小企業経営者の会から講演に呼ばれてうかがいましたら、「大企業は大幅な黒字を計上して大幅増のボーナスを出した。しかし、中小零細業者には全くいいことはない。今の大企業経営者は、下請け・孫請けを安く使うことしか考えていません」といった悲鳴を多く聞きました。国民所得が増えていないのですから、私もその通りだと思います。大企業が下請け・孫請けの収入を吸い取って自社に黒字をもたらしている、というのが日本経済の実情です。その結果、犯罪予備軍は増え、日本は犯罪社会へと傾いている。経済だけでなく、社会環境までも犯罪の多いアメリカ型になりつつあるのです。
 皆で力を出し合って幸せになっていこう、というのが日本の社会だった。それで日本は世界一の経済大国になった。なのに、自己否定をしてアメリカ型に傾く。
 結局、言われるがままアメリカの体のいいように経済奴隷にされてしまう。誇りも気概も持たない。中国、韓国、北朝鮮から言われ放題になっても、それに対してなすすべを知らない。こういった日本の未来像が現実感を帯びてきている。時間的余裕はないと思います。


日本の将来のために政局狙う覚悟


田崎 そこでぜひお願いしたいのは、亀井先生がもう一度、政治の中枢に座を占められて、救国内閣を誕生させ、お話しされたようなことを具体的に進めていただきたいということです。志師会の会長という今のお立場で発言されても、外野席からボールを投げているようなものですから、日本を救うにはやはり政治の舞台の中心人物になっていただかなければなりません。

亀井 おっしゃるように、権力を握らなければ政策を速やかに推し進めることはできないわけです。批判をして、正すのを待つというのでは、まわり道をしているようでなかなかことは進まない。
 ご存じのように、私は政調会長を二期務めていたときには、多くの革新的な政策を実現してきました。しかし、こういったことは権力の座にないとできないのです。
 小泉総理は、最大限あと1年半あれば日本の流れは取り返しのつかないところまでいってしまうと思います。残念ながら2年前の総裁選では敗れましたが、日本の国を良くしていこうという気概が欠けることは全くありません。

田崎 今度のポスト小泉はチャンスですよ。

亀井 小泉総理の次を決めるのは、1年半後になるか分かりません。郵政民営化問題の推移のなかで、中央突破するような形で強攻策に出れば党内反発が強まり、権力構造が変わる可能性があります。私が総理になれる状況になれば、指揮を執りたいと思います。今の日本の流れを変えていくために全力で投球していきます。
 先日も、党の総会で「今、流れを変えなければ、自民党の未来も、日本の未来もない。我々は議員バッチをつけている意味がなくなる」と強くいたのです。自民党は郵政民営化も含め、妙な方向に流されない政治を行わなければいけません。そこで今、綿貫民輔氏などと共に具体的に動き始めています。

田崎 先生のように国会議員全員が命がけの仕事をしていただかなければいけないと思います。日本は、日米安保により国の生存を確保しようとしていますが、安保体制だっていつ崩れるか分からない。100年以上も続いた二国間同盟など歴史上にないのです。崩れたとき、日本はどうやって自国を守っていくのか。こういったことに対する、長期的な国家戦略がないのです。特に今の小泉内閣はアメリカ一辺倒です。

亀井 中国の存在も時間と共に大きくなってくるし、韓国と北朝鮮だって一緒になることだってあるかもしれません。威嚇をしてきたとき、アメリカが助けてくれる保証はないのです。アメリカにとっても脅威を除去するだけのためにアメリカが動くことは期待できません。

田崎 昔のように米ソが対立していた状況なら、アメリカは日本を味方につけるために助けるかもしれませんが、今のアメリカの一極支配体制が確立されています。ですから、アメリカ人の汗と血を流してまで、日本の国を守ろうなんて発想は出てこないでしょうね。

亀井 アメリカは完璧といってもいいぐらい自国中心主義です。

田崎 特に第二次ブッシュ政権は、はっきりとその姿勢を表していますね。ですからぜひ、亀井先生に頑張っていただきたいのです。

亀井 私は、物心共に豊かな「美しく力強い日本」を復活再建させ、国民の幸せと子孫の未来のため、身命を賭して政局を担っていく覚悟でいます。

田崎 期待しております。本日は、大変お忙しいなか有難うございました。

※無断転載を禁ず


戻る

TOPに戻る

バックナンバー