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新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2005.7.12◎毎日新聞夕刊 特集WORLD
短歌に託す、闘将・亀井静香的ココロ

こわもてイメージの自民党元政調会長、亀井静香さんが、その胸中を短歌に託している。ちょっと意外だけれど、郵政民営化をめぐるバトルで緊張感みなぎる永田町夏の陣、闘将はいかなる歌をーー。【鈴木琢磨】

何故に心惹(ひ)かるる桜花
 咲くを惜しまず散るを惜しまず

 郵政国会の最中、東京・丸の内のギャラリーで、亀井さん、油絵の個展を開いた。絵筆を握る趣味がおありだとは承知していたものの、芸術の秋でもあるまいに。どうも生臭いぞと思いきや、そこにいまを盛りと咲き誇る桜の絵があって、そのわきにこの歌がポンと。「かめいのしずか〜」と呼べば、王朝歌人っぽくはあるけれど。
 「この歌、つくったのは2年ほど前だったかなあ。ぱっとできたね。深刻ぶって詠んだわけじゃない。で、この歌を入れるための絵を描こうと思って、この春、奈良の吉野を歩いてきたんだよ。やっぱしね、あそこは南北朝のころから、もののふたちの覚悟の魂が漂ってるところだよ。義経もゆかりがあるしな。そうしたもののふの心を体いっぱい浴びてきたよ」
 その吉野の山で亀井さん、後醍醐天皇の勅願寺(ちょくがんじ)、如意輪寺(にょいりんじ)に足を運んでいる。この寺には逸話がある。楠木正成の息子、正行(まさつら)が足利軍を迎え撃つための出陣に際して堂の扉に矢じりで辞世の歌を刻んだのである。その扉がいまも宝物殿に残る。<帰へらじとかねて思へば梓弓(あずさゆみ)なき数に入る名をぞとどむる>。わが心境になぞらえ、この歌、ぐっときたに違いない。
 「ハハハ。展覧会でうれしかったのは、見にきてくれたおばちゃんたちが私の歌を書きとめてくれてさ。サラリーマンもいたな。そんなにいいかね、この歌。通りかかりに立ち寄ってくれたおばあちゃんなんか、こんどは娘さんを連れてきてくれてね、リピーターですよ。この日本も、まあ、ずいぶんすさんじゃったけど、まだまだ大丈夫だぞって感じがしたな」
 平河町は砂防会館にある派閥の会長室で亀井さん、ご機嫌である。それもそのはず、郵政民営化関連法案は第1ラウンドの衆院を通過はしたけれど、自らも反対票を投じ、否決まで「5票差」にまで迫ったからである。第2ラウンドの参院では否決されるかもしれない。小泉純一郎首相、いよいよ追い込まれた。ふと見れば、支持者から贈られた立派な甲冑(かっちゅう)がデンと置かれている。こんな歌がある。

節分に招福願い一念す
 弱者に利して国家繁栄

 「私の政治姿勢ですよ。小泉さんは強者に利す政治でしょ。新聞の世論調査に出とったよ。55%は生活に困っているって。一部はどんどん所得が増え、中間層が消えていく。そして、中小、零細企業、農民、漁民に未来がなくなっちゃった。こんな政治はいけませんよ。それで郵政民営化。じいちゃん、ばあちゃんいじめて、田舎の郵便局をつぶして、何が改革ですか? 改革というのは国民のために社会をよくすることでしょ。小泉改革は改革じゃなくて、改悪なんだよ」


深吉野の山より深き人の業 されば桜か吾が道しるべ

郵政バトル、第2ラウンドへ

 とはいえ、自民党をぶっ壊すと宣言した小泉さん、もののふ、サムライにも見えましたがねえ。
 「あのね、サムライはさ、辻斬(つじぎ)りなんてしないよ。辻斬りは」

今日の日を尽くして生きるこの身なら
 明日は生かされ命かがやく

 なるほど、われこそサムライだ!と言わんばかりの歌もある。で、短歌はどこで勉強を?
 「そんなの別に。私は気ままなの。思いついたことを五七五七七の形式にしてホームページにのっけてるだけだよ。でも、短い文のなかに思いをぎゅっと凝縮できるでしょ。そこがいいのかもな。高校時代、学生歌の詩の募集があってトップに選ばれたことがあったけどね」
 ケムに巻いて謙遜(けんそん)するが、その実、詩歌には相当、慣れ親しんでおられるとお見受けした。吉野ではわざわざ西行庵にまで足を延ばしている。西行といえば、桜である。名歌がある。<願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ>。いかがですか?
 「西行の生き方は一番の理想だろうけど、私は政治家だから世俗を捨ててというわけにはいかないね。世俗がこんなにおかしいんだから。世俗を直してから、桜の下でノノ。いまの日本に欠けてるのは謙虚に先人の魂を学ぶということ。自分たちのDNAから逃れることはできないのにアメリカのDNAをまねて。経済、外交政策もそう、郵政民営化だってアメリカの要求ですよ。日本は自然とともに、みんなで生きていく。共生の思想こそが、やまと心ですよ」
 同じ政治家の短歌でも、小泉さんのはこんな感じである。<警護なし横須賀線に一人乗る大臣やめてホッと一息>。いまならさしずめ<総理をやめて>あたりか。
 「へー、そんな歌をねえ、知らなかったな」
 さて、気の早い永田町スズメたちの間ではポスト小泉のうわさでもちきりである。亀井派の平沼赳夫前経産相が名乗りを上げたり。
 「いやいや、彼とはライバルなんて、そんな関係じゃない。ずっと一緒にやってきた同志だよ。まあ、とにかく郵政はもうおしまい。通らないから。亀井時代? 君ねえ、私、権力闘争やってるわけじゃないんだ。日本をよくすればいいんだ。よくすれば」
 新作を所望するとこんな歌を。

深(み)吉野の山より深き人の業(ごう)
 されば桜か吾が道しるべ

 満を持しての闘将の戦い、桜と散るのか、散らぬのか。

※無断転載を禁ず


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