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新聞・雑誌等での亀井静香の発言

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2006.5.26◎週刊金曜日
国民新党 亀井静香衆院議員インタビュー
「だから共謀罪には反対です」

聞き手 林克明(はやしまさあき)
ジャーナリスト

“話しあっただけで処罰される”共謀罪の強行採決は、「国民の一大関心事になっている」と、今週中はひとまず見送りとなった。とはいえ、まだまだ予断を許さない。警察庁キャリアとして捜査現場にも携わった亀井静香氏は、この法案をどうみているのか。



--亀井さんは警察庁出身、しかも一九七一年には、いわゆる“極左事件”に関する初代統括責任者に就き、成田空港事件、浅間山荘事件、日本赤軍テルアビブ空港事件等を陣頭指揮していました。捜査に携わっていた人物から見た共謀罪法案についてぜひ語っていただきたいのですが。


 「まず、国民新党は党として反対です。通常、警察庁のキャリアは捜査の現場にはたずさわらないが、当時は非常事態でしたから、私は自ら全国的な捜査の指揮をとっていた。(連合赤軍の)板東国男、森恒夫も取り調べました。
 その私に言えることは、この法律が成立すると、実務上、きわめて広い範囲に共謀共同正犯が拡がる。これまで立件できなかった事件にまで拡がる可能性が高い。
 たとえば、ある被疑者を逮捕したとします。『君だけの犯行じゃないだろ。誰かと話はしただろう』と誘導していくと、捕らえられている人間は非常に弱い立場ですから、誘導にそった供述をしてしまいます。それが捜査の現実です。人間の弱さだと言ってもいい。
 こうなると、共犯が限りなく拡がっていく。組織犯罪集団とされる団体の周辺には、学生もいれば、文化人、知識人もいる。人間社会だから交友関係もある。思想上の共鳴者など、いろんな人がいるが、こういう人たちにまで共犯という輪が、この法律によって拡がる危険性が極めて高い。だから共謀罪には反対です」

検事調書に書かれた「供述」で犯罪が成立する


--すると対象となる組織犯罪集団そのものも拡大するわけですね。


 「どこまでが組織犯罪集団で、どこが違うのか厳密に規定するのは現実的に難しいと思います。思想集団・犯罪集団の周辺にはサポーター的な人たちがいるわけで、こういう人たちが事件に直接関わっていないのに捕捉される。
 当局にとって都合の悪い人間をどんどん捕まえるという刑事政策的な考えもあります。確かに犯罪を抑止したり、犯人を検挙することは大切ですが、一方で市民生活の自由を守らなければならない。共謀罪は、このバランスを崩し、市民生活の権利や自由を不当に侵す危険性があります。
 しかも、いま現在の実態がそうでしょう。検事調書に書かれてしまうと、公判で『違います』と言ったって裁判官は認めてくれない。検事調書にサインをしなければ釈放されないのが、現在の司法の実態です。
 そういう実態の中で共謀罪ができて、(犯罪の)合意があったと誰かが供述したとします。裁判官が証拠としてこの供述を採用すれば、本人がいくら否定しても通らない場合がほとんど。公判での被告人の供述よりも検事の前で話した供述・検面調書(検察官面前調書)が重要視される裁判構造がずっと続いているのです」

--犯罪の「合意」の有無は、供述以外では認定できない?


 「それは難しいのです。契約書にサインするわけでもないでしょ。仮に飲み屋で『やろうじゃないか』と言ったとか言わないとか、証人もいないで一方的な供述だけで、事件に引き込まれる危険性がありますね。今は自白が証拠の王ですから」

--捜査官の組織内への潜入や盗聴も必要になると批判されています。現在でも、おとり捜査もあり、盗聴法もあるので、そういうことは行なわれているわけですよね。


 「麻薬捜査などの場合に、捜査手段として必要な場合があるかもしれません。今も盗聴法がありますね。必要と判断された場合にはね、そうされますね。捜査に携わってきた人間として、捜査手法として否定しません。ただ、共謀罪のように他人が『あいつと相談した』と一方的な供述で、周辺にいる人間まで網にかけるのがいけないといっているのです。
 犯人を捕まえやすくするとか、社会の危険な芽を摘むことは大事だけれども、これに極端に傾斜した場合、その社会は非常に暗いものになる。個人の権利が、どんどん抑圧される状況が生まれた場合、民主主義国家としては非常に危険だと思います」

「腐っている」自民党に少数派が闘いを挑め


--与党は強行採決の構えを崩していません。


 「ある時期になれば採決は必要でも、できるだけ少数意見を取り入れて結論をだすのが議会制民主主義。選挙で多数をとったものが何をやってもいいというのなら、選挙ごとに独裁政治をつくることになってしまいます」

--問題があるにもかかわらず、なぜ政府は強硬に成立を図るのでしょうか。


 「国際条約を批准したから共謀罪が必要だ、と政府・与党は主張しています。しかし、批准したからといっても、日本には刑法上そのような規定はすでにある。何もこのような法律をつくらなくても現行法で対応できます」

--そもそも法案を強行させようとする小泉政権の体質に問題はないのですか。


 「これは書いてもらって構いませんが、全部ではないが国民のほとんどがアホだということです。小泉さんの怖いところは、そのことを政治的な武器に使っていること。面白い味付けをすれば国民が飲んでくれるんですよ。そういう状況を見据えて、昨年の郵政解散のように何でもやってします。
 国民がしっかりしなくては、民主主義が衆愚政治になってしまいますよ。独裁政治になってしまいます。一部の良識ある人たちの声や権利が民主主義の名のもとにかき消されてしまう。いま現実にそういう状況でしょう。選挙で自民党が勝ったから好き勝手にやっている。
 国民のほとんどがおかしくなっている状況。それは占領政策のために日本人の魂を失っているのが根本原因です。人間とは何かを考える力がなくなってきている。一方ではアメリカの占領政策を請負人のように実行することが保守本流となり、他方ではソ連や中国のイデオロギーを導入して革新と称してきた人たちもいる。
 しかも、日本は市民革命を経ていませんから、本当の意味で個人の権利とか自由とは何かを考えた経験が少ないのです。日本人のDNAに基づいた人間の生き方、自由や権利を考える層が非常に脆弱である。それが今の状況です。
 たおやかな心を大切にする精神を失ったから、嫌いなやつはどんどん捕まえてしまえ、とばかりに共謀罪のような法案が出てくるわけです」

--昨年の郵政民営化を巡っては、権力内部にいる自民党議員でさえ、あれだけの圧力を受けた。そのうえ共謀罪新設となればどうなることか。自民党内でも反対や疑問の声はあがらないのでしょうか。


 「小泉さんのやることに反対して何の得もない。いまの国会議員というのは、ポスト争いや自分の議員バッジを守る観点でしか対応しなくなってしまった。
 見てご覧なさい。郵政法案のときに反対した人たちは、選挙後にシュンとしてしまっています。あのとき郵政民営化法案に反対した人たちでさえ、出される法案に全部賛成してしまっている。
 まして、あのとき自民党内の議員は、ほとんどが郵政民営化法案に反対だったのです。だけど、保身のために賛成に回ったでしょ。そういう人たちが共謀罪に関して、党議決定に反対することなどありえない、期待できない。腐っている。
 強行採決されたなら、国会戦術も含めて野党と世論で盛り上げていくしかないです。国民が、どの程度目覚めるかもカギになります。
 歴史を見れば、変革とか改革は常に少数派によるものであって、多数派は現状維持です。だから、いま少数派だからといってがっくりするのは間違い。少数派が未来を変えるのは宿命であり、どんなに苦しい闘いでも自信をもって進むべきです」

「飲み屋で『やろうじゃないか』と言っただけで事件に引き込まれる」

※無断転載を禁ず


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