夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【19】SARS拡大は経済のマイナスにつながる
2003.05.15

初動の遅れが…

 新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)が猛威を振るっている。
 世界保健機関(WHO)によると、12日までに報告された可能性を含む感染者は7447人で、死者は552人。感染拡大が突出している中国と香港では、死者が252人と218人まで増えた。当初、6%前後とされた死亡率も、14〜15%に上るとの見方もあり、65歳以上の死亡率は50%を超えることも分かった。
 人類の歴史を振り返ると、疫病(=感染症)との闘いの歴史ともいえる。ペスト菌やコレラ菌、天然痘が流行すると、数十万単位の人々の命が奪われた。人類はこうした未知なる疫病を、当時の最先端の医学で押さえ込んできたのだ。
 そう考えると、SARSの発生も驚くべきことではない。
 これまで同様、どういう経緯でSARSが発生したのか短期間で原因を突き止め、感染拡大を防ぐ方法を確認して人々に周知徹底したうえで、ワクチンや治療薬の早期開発に全力で当たるしかない。
 そういう観点からいうと、第一号患者が発生した中国の初動対応が遅れたことが悔やまれる。徹底した上意下達ができる全体主義国家だけに、患者が出始めた昨年末の時点で感染防止の体制を組むこともできたはずだが、組織内の保身意識が悪く働いたのか、秘密主義的な側面が目立ってしまったようだ。
 中国がほとんど情報を公開しなかったため、感染症制圧のための情報交換や国際的協力を進めるWHOが実態把握に手間どり、被害が世界規模で拡大したことは、大いに反省すべきだろう。
 SARSが中国や日本、世界の経済に与える影響も無視できない。
 専門家の「中国のGDPは2%は減る」という予測もあるが、すでに観光・旅行業や飲食業、サービス業などに打撃が出ており、今後、感染者が多数出た生産工場の閉鎖なども考えられ、中国経済に深刻な影響が出る可能性は高い。
 日本も企業の中国移転が進んでおり、人的および資本的なつながりが増大しているだけに、SARS拡大は経済へのマイナス影響が大きい。
 ともかく、安易な安心感も良くないが、過剰な恐怖感も絶対に良くない。WHOや各国政府が先頭に立って、どうしたら感染拡大を防げるのか、現時点での正確な情報や知識を、国民や企業に徹底していくことだ。
 こうした未知の感染症に関するニュースを聞くと、私は人間が大自然の中で生かされていることを実感する。地球上のすべてを支配しているように振る舞っている人間だが、実は脆弱(ぜいじゃく)な生存基盤の上にいるのだ。SARS問題は、改めて、私たちにそのことを自覚させてくれたのではないか。

※無断転載を禁ず

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