夕刊フジ連載
最近、小泉純一郎首相が「自民党は半分ぐらい壊れている」とか「私は(秋の自民党総裁選)で必ず再選される。対立候補は立てられないだろう。面白いから見ていてごらん」などと発言している。これをマスコミは「うぬぼれ」「挑発」などと報じているが、私の見方はかなり違う。
一連の発言は、首相が総裁再選が不可能になったことを深く認識した、「危機感の表れ」ではないかと思う。
もし、自民党総裁が国民投票で決まるなら再選の可能性はあるだろうが、実際に投票権を持つのは自民党員である。地方では、小泉政治によって生活基盤をボロボロにされた中小零細企業や建設業者などと、その支援を受けている地方議員。これでは、首相は地方では勝てない。
中央の国会議員も、わが志帥会(江藤・亀井派)は小泉再選は「ノー」だし、平成研(橋本派)も宏池会(堀内派)も首相とは距離を置いている。「政策転換すれば…」という声もあるが、選挙目当てで政策や人事を変えるのは便法であり、首相がそんな卑怯(ひきょう)な手を使うとは思えない。
確かに、2年前の総裁選では、首相と田中真紀子前外相との二人三脚で奇妙なブームがわき起こり、地方も中央も引きずられたが、「小泉政策=日本経済崩壊策」と正体がバレた以上、今回は自分の生活を犠牲にする選択はしない。
つまり、首相が再選する可能性はゼロに近いのである。
ヤケクソ解散も
昭和53年の自民党総裁選の予備選では、現職だった福田赳夫首相(当時)が大平正芳幹事長(同)と争って敗北し、「天の声にも、たまには変な声もある」と涙をのんだ。あの時、すぐ近くで権力闘争のスゴさを見て、政治力学について学んだのが首相である。
これを踏まえて、首相発言を考えると、とても総裁選では勝てないと見切って、「国民に信を問う」などと大義名分を付けて“ヤケクソ解散”に持ち込み、総裁再選を狙おうという意欲の表れではないのか。
経済有事といえる現在、国内を留守にして外交日程ばかりを入れているのは、いわゆる選挙対策といえなくもない。
ただ、この敵中突破といえる小泉戦略も、私は無謀と考えている。
平成十年の参院選を思いだしてほしい。当時の橋本龍太郎首相は高い支持率を誇っていたが、緊縮財政路線による不況のため大敗して退陣した。
首相は「この支持率なら負けない」と考えているかもしれないが、過去最悪の完全失業率や倒産件数、自殺者数、株価下落率、犯罪発生率などを見る限り、石原新党という要素を除外しても、自民党が負ける可能性は高い。
首相の前には断崖(だんがい)絶壁が待っている。
※無断転載を禁ず