夕刊フジ連載
米の轍を踏むな
ノーベル経済学賞を受賞した米経済学者、ポール・サミュエルソン氏が先日、新聞紙上で米国経済の現状についてこう語っていた。
「自国の経済が好転して景気後退の時期を脱し、実質的な経済成長が加速の兆候を示すと、だれでもうれしくなるもの。景気が回復すると雇用機会が急速に改善され、給料が増えて元気になり、生活が良くなる希望がわいてくる。だが、米国がそうなっているようには、とうてい見えない」
サミュエルソン氏はこの理由について (1) 米企業が生産拠点を賃金の安い外国に移している (2) 利益追求による労働人口の減少 (3)賃金上昇に浴さない人々も平均寿命が伸びている--などと指摘していた。
これは日本経済についても言えることだ。
平成16年3月決算で一部の大企業が過去最高益を達成する見通しとなっているが、日本企業の大半をしめる中小企業は惨憺たる状況で、47都道府県すべてで労働者の所得は下がり、厳しい雇用環境は続いている。
大企業の本社機能が集中している東京はまだマシだが、地方は富も人も空洞化して目も当てられない事態となっている。
これを克服するには、抜本的な経済政策や社会政策の転換が求められる。私としては、社会資本整備と技術革新をテコに内需拡大を しながら、日本経済を躍動させるしかないと考えている。
残念ながら、現在の日本は「資本の論理」「強者の論理」が自由にまかり通るのを放置し、むしろ促進する政策が取られている。
このままでは、日本の約2割の人々は「勝ち組」として幸せな生活が送れるが、それ以外の約8割の人々は雇用や所得面で極端に厳しい状況に追い込まれる。いわゆる上下分離の「階層社会」が出現するだろう。
こうなると、社会に絶望して不満を持った人々が不法行為に走る、米国のような犯罪多発型社会になりかねないし、その兆しは見え始めている。
サミュエルソン氏は前出の新聞紙上で、米国の階層社会について、「純粋な市場システムを放置すれば、富と所得と実質的な向上の機会の面で、大きな不平等を生み出す」と警鐘を鳴らし、「有権者が他人の利益を認める愛他主義の精神を持つか、受け入れるかできるなら・・・」と克服法を示唆している。
われわれも、一部に偏っている富と所得を、社会の競争力を落とさないまま、どう分配していくかについて真剣に考えなければならない。
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