夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【67】高支持率でも小泉政治に危惧
2004.04.29

ひたすら米追随

 小泉内閣が発足から丸3年を迎えた。一時の勢いこそないが、いまだに5、6割という支持率を誇っている。国民がある程度、小泉政治を容認しているのは客観的事実といっていいだろう。
 問題は「小泉政治が国家を理想とされる方向に牽引(けんいん)しているか否か」だ。私はこの点について強い危惧(きぐ)を持っている。いま世界中を「強者の論理」が覆っているが、首相はその流れに付き従っているだけではないか。
 外交分野でいうと、超軍事大国である米国の力の政治に対して、同盟国としてアドバイスしたり、異を唱えたりする姿勢は見えない。  イラク戦争でも、仏独両国のように「大量破壊兵器の査察を進めて、国際社会の合意を得てやるべきだ」などと迫ることなく、米国の要求通りに、集団的自衛権の政府見解も変えず、法的に自衛隊員の手足をしばったまま派遣した。
 このことが将来、北朝鮮問題や台湾問題、中東問題を含めて、日本が真のパートナーとして米国の世界戦略に関与、ともに責任を持っていくことを遠ざけてしまったのではないか。極めて残念だ。
 経済分野でいうと、首相はブッシュ米大統領との約束に従い、意図的な「不景気政策」を取ることで、強引な不良債権処理を進めている。
 大企業はリストラで生き延びているが、そのシワ寄せを受けた中小零細企業は破産したり、経営悪化に追い込まれている。一部の強者だけが黒字を増やし、大多数の弱者は産業政策、金融政策の両面から強者になる道を断たれている。こんなことで「景気は回復基調」と判断していいのか。
 外資が日本経済に投資するのは大歓迎だが、先人が育て上げた日本企業が政策的につぶされて、タダ同然で外資に買い取られるのを放置していいのか。これが国民にとって本当に幸せなのか。
 かつて、古典経済学のアダム・スミスは、自由放任の経済システムを唱えたが、それが進行した結果、国は富んでも国民の大多数は貧困に苦しみ、多数の悲劇が起こった。こうした社会的矛盾が革命や戦争につながっていった。
 ケインズ経済学はこれらの社会的矛盾を是正するため、政府に経済システムを制御する役割を持たせたのだが、現在、小泉政治は無数の悲劇を生んだ古典経済学の世界に引き戻そうとしているのではないか。
 今後、わが国では強者と弱者の分離がさらに進み、一部の大金持ちと大多数の庶民の賃金格差は開く一方になる。食えない人々が犯罪予備軍になるのは人類の歴史を見れば一目瞭然(りょうぜん)だ。現に、凶悪事件は増加しており、かつての治安大国の面影はもうない。
 しかし国民の半数はこうした現状を是として、日本丸は進んでいる。霧の中に近づきつつある悲劇を見ようともせず、「今さえ良ければ」という怠惰に酔いながら。私の危機感は募るばかりだ。

※無断転載を禁ず

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