夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【70】北に足下見透かされた小泉首相
2004.05.27

 先週22日に平壌で行われた日朝首脳会談について書きたい。
 小泉純一郎首相が「拉致や核ミサイルなどの懸案事項を解決したい」と努力したことは多としたい。ご苦労さまだったが、今回の会談には問題が多い。
 まず、順安空港での出迎えが、前回訪朝時に比べてランクが下がる金永日外務次官だったうえ、会談場所の大同江(テドンガン)迎賓館では、訪問した首相が金正日総書記を出迎えるという屈辱的な形式が取られた。
 外交は形式が重要。これらは外務省事務方の失態だろうが、国際慣行を無視された中で会談して、中身のある成果が得られたとは考えがたい。
 大体、核拡散防止条約(NPT)からの脱退宣言など、北朝鮮が一昨年9月に署名した日朝平壌宣言を履行していないのは明白である。
 その宣言には「拉致問題の解決」という文言すら入っていないのに、拉致被害者の子供5人を返しただけで、わが国の重要なカードである経済制裁を事実上発動しないと約束したのは、どういうことなのか?
 前回訪朝時に、北朝鮮が「死亡」「不明」と説明した拉致被害者10人については、その後、死亡や不明を否定する情報や事実が次々に明らかになっているが、金総書記から謝罪や釈明を受けることもなく、「再調査を行う」という抽象的な言葉だけで、事実上棚上げにされた。
 それ以外に拉致された疑いのある100人以上とされる日本人についても解決に向けた道筋は付けられず、会談は金総書記によって、わずか93分間で一方的に打ち切られたという。
 これで、25万トンの食料支援と1000万ドル相当の医療支援を約束してきたというのだから、「子供5人の身代金のようだ」と言われても仕方ない。誇りある独立国家である日本がこのような外交をしていいのか?
 以前にもこのコラムに書いたが、北朝鮮の脅威を現実的に防ぐ対策を取らないで、外交交渉に臨むからこうなる。
 防衛庁によると、北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とすための、ミサイル防衛(MD)システムを全国規模で配置するには7000億円あれば足りるという。
 ところが、政府は今年度予算で「首都圏防衛のため」として1000億円程度しか計上していない。首都圏以外の国民の生命や財産はどうでもいいのか。中途半端過ぎるのではないか。
 自国の領土と国民を守るのが国家の基本的な責務。そのための独自の防衛体制を取らないから、北朝鮮に足元を見透かされ、侮辱されながら交渉せざるを得なくなっている。極めて残念というしかない。

※無断転載を禁ず

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