夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【71】よってたかって…日本人の心の崩壊だ
2004.06.03

  先月の日朝首脳会談をめぐり、小泉純一郎首相を批判した拉致被害者家族会に対する、インターネット上でのバッシングが続いている。
 また、イラクで武装グループに人質として拘束され、解放されたジャーナリストやNGO関係者、その家族に対するバッシングも記憶に新しい。
 私は昨今のこういう風潮は極めて問題だと思う。
 弱い人々がメソメソと悲しんでいれば高みの見物で同情するが、いったん自分の立場を主張し始めると、「いい加減にしろ」「自己責任だ。国に迷惑をかけるな!」などと、よってたかって攻撃する。どこか、小中学生の陰湿なイジメに似ている気がする。
  北朝鮮に拉致された同胞を取り戻すのは国家の義務であり、それを要求するのは家族の方々の当然の権利である。
 政府や首相に対して、「なぜ、もっと頑張ってくれなかったのか?」と声高に迫ったとしても、それを何の被害も受けていない人が批判するのはおかしい。
 イラクで人質となった人々も遊びに行ったわけではない。
 「親のない子供たちを助けよう」とか「戦争の実態を伝えよう」という意識を持ってイラクに入ったのであり、それを六本木あたりで遊びほうけている人々や、金のためなら何でもありの生活をしている人々に批判されるいわれはない。
 そもそも、憲法22条は「何人も外国に移住する自由を侵されない」と保証しており、これは海外渡航にも通じる大原則なのである。

弱肉強食の社会

 アメリカ型の弱肉強食社会が定着したため、「他人を思いやり、いたわり合う」という日本人の矜持(きょうじ)が失われ、社会の閉塞感を背景にして「自分さえ良ければ、他人がどうなってもいい」「他人の不幸など関係ない」といった風潮が広がりつつあるのではないか。
 私からすれば、北朝鮮による拉致事件でも、イラクでの人質事件でも、日本政府の対応にこそ疑問を感じることがある。  今回の日朝首脳会談で、北朝鮮がこれまで「死亡」「不明」と説明してきた拉致被害者10人について、白紙に戻して共同調査することを決めたようだが、犯人と被害者が一緒に調査するなど聞いたことがない。
 イラクの人質事件でも、自国民を拘束した武装グループに対して断固たる捜査を進めているという話も聞かない。国民の生命と財産を守る--という国家の義務が疎かにされているのではないか。
 ともかく、一連のバッシングで感じるのは、日本人の精神の歪み、心の崩壊だ。日本の未来が心配でならない。

※無断転載を禁ず

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