夕刊フジ連載
北朝鮮による拉致被害者、曽我ひとみさんの一家が18日夕、滞在先のジャカルタから帰国・来日された。夫で元米兵のジェンキンスさんの病気治療が当面の心配事ではあるが、一家4人が日本で生活されることは極めて喜ばしい。
家族を残しての帰国から1年9カ月、曽我さんが抱えてきた苦労と寂しさを考えると、心から「よかった」と感じている。
私は政治家として、日本人同胞として、曽我さん一家のこれからの生活をあたたかく見守っていきたい。
ただ、これで拉致問題が解決したわけでは決してない。
平成14年に小泉首相が訪朝したさい、北朝鮮が「死亡、不明」と説明した拉致被害者10人や、拉致の疑いが濃厚な100人以上の日本人について、日本政府は北朝鮮に対し、全面解決に向けた明確な対応を求めなければならない。
そのためには、私が官房長官や警察庁長官に強く要請したように、拉致被害者や家族の方々の事情聴取を行い、他の拉致被害者や疑いのある人々に関する生の情報を得るべきだ。これは捜査の常道である。
米国や中国、韓国など他国の協力をあおぐためにも、日本独自の情報を持たなければならない。病院での治療で体調さえ戻れば、ジェンキンスさんにも協力を要請するのは当然だろう。特別扱いされていただけに、他の拉致被害者では知り得ない情報を持っている可能性がある。
安全保障上の問題も重要だ。日本列島を射程内にとらえた北朝鮮の弾道ミサイルに対処するためには、防衛庁が計画するミサイル防衛(MD)システムを導入しなければならない。
政府は「首都圏防衛のため」として今年度予算で1000億円程度しか計上していないが、首都圏以外の国民の生命と財産はどうでもいいのか。こういうものは北海道から沖縄まで全国規模で配置すべきであり、関係者によると7000億円あれば足りるという。
加えて、6カ国協議などを通じて、北朝鮮に「核の完全な廃棄」という大原則を約束・実行させなければならない。これは日本だけでなく北東アジアの安全保障上、決して避けて通れない問題である。
拉致・核の全面解決必要
曽我さん一家の帰国・来日を受け、政府内外には国交正常化に向けて大きく舵を切ろうという動きがある。首相自身も討論番組で「できるだけ早いほうがいい。1年以内にできればいい」と語っていたが、大前提である拉致問題や核・ミサイル問題の全面解決なくして国交正常化はあり得ない。
急いで国交正常化することは、わが国にとって政治的にも経済的にも何のメリットもない。いま一度、このことを確認しておきたい。
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