夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【80】「その場しのぎ」感覚が蔓延してないか・・・
2004.08.05

 凶悪犯罪が激増の一途をたどっている。
 最新の警察白書によると、平成14年の刑法犯認知件数は285万3000件を超え、7年連続で過去最多を記録し、この10年間に100万件以上増加した。犯罪内容も殺人・強盗など重要凶悪犯罪が多発する一方、ひったくりや住居侵入など、市民の治安感覚に直結する犯罪も増加している。
 この背景には、ここ数年で日本社会が弱肉強食の米国型社会に変貌(へんぼう)しつつあることが大いに関係しているようだ。
 例えば、大企業はリストラと称して従業員をどんどん解雇し、賃金の安い派遣社員やパートに替えている。下請けや孫請けの中小零細企業を利益がほとんど出ない安価で使い、自分たちだけ膨大な利益を得ている大企業もある。
 こうした中、国民は1人ひとり孤立化して、自分の身を守ることできゅうきゅうとし、「生き残るには何をやっても構わない」「他人は自分が利益を得るための道具」といった悲しむべき風潮まで生まれつつある。
 助け合ってきた隣近所の人間関係も切断され、安らぎを得るはずの家族関係も希薄になり、一瞬にして憎しみに変わったための悲劇も続発している。
 日本社会がここまでヒドくなると、金銭目当てなどで凶悪犯罪が増える一方、社会や人生そのものに絶望する人々も出てくる。

「警察法式典」欠席のワケ

 警察庁によると、昨年1年間の自殺者数は3万4427人に達し、過去最悪を更新した。中でも、負債や生活苦などの「経済・生活問題」が動機とみられる自殺が大幅に増えて8897人に上り、依然として厳しい経済情勢が中高年世代を追い込んでいる実態が明らかになっている。
 ここまで来ると、いくら治安維持・犯罪防止の意欲に燃えていても、現場の警察官の努力だけで対応できるものではない。こういう社会を現出させてしまった、政府の責任を問わねばならないだろう。
 ただ、警察OBとして幹部諸君には一言ある。私は歴代の警察庁長官に「凶悪犯罪や広域犯罪、外国人犯罪に対応するため、警察法、警察官職務執行法を時代に合わせて改正すべきだ」と訴えてきた。
 相手の同意なしに身体検査さえできない警察官職務執行法では、21世紀の犯罪に対応できないことは、警察幹部から末端の捜査員まで分かっている。警察が縄張り争いをしていては、どうにもならない。それなのに、法律改正の努力をしないのは職務怠慢としかいいようがない。
 従って、私は7月26日の警察法施行50周年の記念式典に出席しなかった。
 日本全体を覆う、「その場さえしのげればいい」といった悲しむべき感覚が、警察組織まで蔓延(まんえん)していないか厳しく問いたい。

※無断転載を禁ず

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