夕刊フジ連載
地方からも異議
「三位一体改革」の名の下に、小泉内閣は約8500億円もの義務教育負担金を廃止しようとしている。
これに対し、河村建夫文部科学相は「教育費を切り下げるようなことがあってはならない。国が保障しなければならないことだ」と強く反発。東京都の石原慎太郎都知事や長野県の田中康夫知事も地方自治の立場から異議を唱えているが、当たり前のことだ。
わが国の憲法下において、義務教育制度を守っていくことは国家として最大の責務である。
大都会だけでなく、山村や離島に至るまで、子供たちは同一レベルに近い義務教育を受ける権利があり、国にはそれをさせる義務がある。この視点を失えば、「国家とは何か」ということになりかねない。
国や地方の財政をどう健全化していくかという問題と、国民の基本的権利を踏みにじっていくのは、まったく別次元の問題だ。
現在アテネ五輪で日本の若者らが世界の強豪に伍(ご)して頑張っているが、そうした若者を大都会だけでなく地方山村からも輩出していく土壌を失わさせるなど狂気の沙汰だ。
郵政民営化でサービス守れるのか?
郵政民営化の議論も疑問だ。
通信の享受を、大都会でも山村でも離島でも、国民が一律に受けられるようにすることは国家として最低の義務のはずだが、郵便業務を民営化して、それを維持することが可能なのか。
黒字ではないか
郵便局を民営化した外国を見ると、数年で郵便局が激減してサービス低下を招いた例が現実にある。現在、郵政公社は黒字であり、国からの補助金、国民の血税を一円も使っていない。なぜ、民営化する必要があるのか。
貯蓄の「受け皿」は?
日本人は貯蓄性向が高い国民として知られていたが、ここ2、3年で急速に貯蓄率が低下している。従来、郵便局ネットアークが担ってきた貯蓄機能を、どの民間金融機関が代行できるのか。
財政投融資のあり方に大胆なメスを入れるのは当然としても、350兆円といわれる郵便貯金がタンス預金になって投資の財源として活用されなくなったら、日本経済に与えるダメージは大きい。
義務教育負担金廃止も郵政民営化も、このままでは地域格差や所得格差を広げることになり兼ねないと、私は強く危惧している。
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