夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【85】特殊部隊の突入やむを得なかった
2004.09.09

ロシア学校占拠

 ロシア北オセチア共和国の学校で、チェチェン独立強硬派とみられる武装集団によって、女性や子供を含む何の罪もない330人以上が犠牲になる許し難いテロ事件が発生した。
 遺族の中には特殊部隊の突入(=爆弾の爆発がきっかけともいわれる)を非難する声もあるようだが、ロシア政府の対応はやむを得ないと思う。
 私も運輸相時代の平成7年、羽田発函館行きの全日空機(乗員・乗客365人)がハイジャックされる事件に遭遇したことがある。
 犯人はオウム真理教(現アレフ)の麻原彰晃被告の釈放を求めてきたが、当時の村山富市首相と野中国家公安委員長と相談のうえ、交渉には一切応じず、SATの突入によって1人のケガ人もなく解決した。
 テロの連鎖を防ぐためにも、「テロリストとは交渉しない」という、毅然とした姿勢は重要なのだ。  ただ、ロシア側にも問題はある。私は民族独立運動や宗教が絡む政治運動を、力による制圧で解決できるとは思わない。
 200年前、ロシアに侵略されたチェチェン人は民俗独立への強い希求を持ち続けたが、圧倒的な軍事力によって何度も制圧された。大国ロシアによる制圧は無差別かつ大規模なもので、チェチェンの民俗独立闘争はしだいに精鋭化していき、今回のような血なまぐさいテロ事件が続くこととなった。
 チェチェン問題は、一部の富を得るための、権力を握るためのテロ犯罪と同様に扱うべきではない。
 地球という惑星で、さまざまな民族がさまざまな宗教を信じて生きていく形態については、基本的にはそれぞれの人々の自由意思に任せるべきだ。人為的に他国家や他民族を支配下に置こうとしたことで、血で血を洗う悲劇が繰り返された歴史を振り返ってみてほしい。
 国連という各国間の協議機関が生まれ、「自由・平等・博愛」という人類共通の価値観が構築されたかにみえる現代においても、こうした基本的視点が大国のエゴイズムによって抑圧されている現実。それを正していく国際世論が現れないことは、一種の人類の堕落といえなくもない。

民族独立の悲願、力で制圧できないが

 日本政府もロシア政府に対して、「力による制圧ではなく、チェチェンの気持ちをくみ取りながら、話し合いで平和的に共存共栄の道を探るべきだ」と直言すべきだ。
 そして、すでに自分たちのアイデンティティー(=独自性)を大切にする国家建設を成し遂げた人々は、それを達成していない人々へのシンパシー(=同情、共感)を持つべきではないか。

※無断転載を禁ず

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