夕刊フジ連載

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亀井静香のこれから勝負だ!
【107】経済界に広がるモラルハザード
2005.03.03

 フジサンケイグループの中核会社である日本放送の株式を、インターネット関連会社のライブドアが大量取得している問題で、百家争鳴、世間では「○○を支持する」「○○を支持しない」といった議論が乱れ飛んでいる。
 この問題について考えるとき、私は「古い」と言われるかもしれないが、いまの時代でも見失ってはならない大切な視点があると思う。
 それは、「経営とは何か」「企業とは何か」ということ。経済活動であれ、産業活動であれ、人間の営みを突き詰めれば「それぞれ個人が幸せになり、みんなが幸せになること」を目標にしている。その根本が忘れられている。
 日本経済が輝かしかった頃の経営者達は利益追求は当然だが、自社だけでなく、下請けや孫請け企業の従業員にまで仕事を通じて生きがいを持たせ、従業員や家族、地域、国家までも豊かで幸せにすることが企業の社会的責任だと受け止めていた。
 松下電器産業をはじめとする松下グループ創業者で「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助氏や、クラボウや中国銀行、中国電力などを興した大原孫三郎氏はこうした哲学を持っていた。
 一方、従業員達も単に金を稼ぐのではなく、人々に役立つ製品を開発・製作したり、世界を駆け巡って取引を成立させたりすることで誇りを感じ、企業や社会に貢献している実感を持ち、生きていく糧にしていた。

金稼ぎ第一主義

 ところが、20年、30年前から「金さえもうかればいいんだ」という悪しき風潮が広まってきている。
 ライブドアの堀江貴文社長は自著やインタビューで「人の心は金で買える」「女性はお金についてくる」「世の中にカネで買えないものはない」などと公言しているらしいが、まさに、こういう流れの中で出てきた経営者といえよう。
 だから、彼がテレビや新聞でいろいろ訴えても、単なるマネーゲーム、つまりカネを稼ぐ手段としてニッポン放送株を取得しているとしか理解されないのではないか。社会的責任を果たすという意識が見えないことが、大きな批判を浴びている原因なのではないか。

社会的責任薄れ

 こうした意識はベンチャー企業だけではない。三菱ふそうトラック・バスによる相次ぐリコール隠しや、三井物産が虚偽データを使って適合指定を受けたディーゼル車の排気ガス浄化装置(DPF)を販売していた問題など、まさに企業の社会的責任を忘れた典型的事例といえよう。
 経済的にモラルハザードが吹き荒れている。この際、日本経団連や経済同好会は、あるべき経営者の理念について議論すべきではないか。

※無断転載を禁ず

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