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郵政民営化反対の理由ー自民党公約に非ず

 郵政民営化法案は現在良識の府、参議院で審議中であるが、それにつけても納得できないのは総理及び党執行部の発言です。夕刊フジでも触れたが、「参院で法案否決されれば衆院を解散する」等の恫喝を繰り返しています。  少なくとも2院政の下で衆議院は可決されているのだから、参議院で否決されたからといって両院協議会及び衆議院で3分の2の賛成を得られなければ廃案という手続きを取らずして解散を声高々と発言する等、狂気の沙汰としか云いようがありません。
 そもそも郵政公社は今から2年前に4年後の見直し規定をつけて小泉総理が自ら発足させており、残り2年後の実施状況を見てから「民営化した方が良い」のか「やはり公社のままが良い」のか徹底的に話し合って決めれば良いことです。にも拘わらず期限を前倒しして、しかも多くの国民が望んでいるわけでもない法案を自分の悲願だからといって遮二無二押しつけた結果否決されたら、其れは小泉政治に対する否定であり内閣総辞職が筋です。それでもなおかつ解散というなら誠に自分勝手な我が儘と云うほかなく、そんな八つ当たりのやけくそ解散は党執行部、閣僚は身を挺して阻止するべきであります。
 また、メールで私へ「自民党公約である郵政民営化に何故反対するのか」というご質問があるが、前回の参議院選挙及び総選挙で公約に盛り込まれたのは「郵政事業を2007年4月から民営化するとの政府の基本方針を踏まえ、郵政公社の経営改革の状況を見つつ国民的議論を行い、2004年秋頃までに結論を得る。」と云うもので、党としては政府の基本方針に決して縛られるものではないと云うことを公約策定当時の総務会で確認されています。
 残念ながら、その後の昨年秋政府は経済財政諮問会議で基本方針をまとめて強引に閣議決定しました。その際政府の閣議決定を党として妨げることは出来ませんが、しかし政府の基本方針は制度設計上かなりの問題点が残されており、党としては了承するわけにはいかず下記「自民党の基本的考え方」に於いてあらためて政府の基本方針に縛られることなく独自の議論を展開していくことを担保したものです。


「自民党の基本的考え方」

わが党は、政府の決めた郵政民営化の基本方針について、
・党としては実質的な党議に入ったばかりであり、今後充分な議論をする必要がある、
・政府の基本方針には、今後、制度設計の段階で解決を求められる問題点が多いと思われる、
などの理由により、党として是非の態度を保留する。
 わが党は、今後、政府の民営化方針を含む郵政事業改革問題について、国民生活・国民経済に資する視点に立って積極的に議論をしたうえで結論を得、政府がこれを尊重することを求めていくことにする。
 党としては政府が基本方針を閣議決定することを妨げることはできないが、法案作成の段階で所要の手続きを進めることとする。


 以上の文面を見ても、現在の法案の中身が選挙公約として掲げられたものではないことは明白であります。
 また、更にこの後の経緯に於いて亀井静香はこう思う「民主主義を完全に無視」に述べているように、議院内閣制を無視し政党政治の根幹を揺るがす暴挙に出ているのはむしろ総理と現自民党執行部に他なりません。
 これらの手法、手続きが間違っているだけでなく、私がこの法案の中身について反対する理由は、

1,3事業一体で運営、ユニバーサルサービスの義務付けが必要

 郵政公社は郵便局ネットワークを通じて郵便・預金・簡保の3事業一体で運営されることにより全ての経費を負担し、現在税金の投入を全くしなくとも民間の金融機関がなくなった離島や過疎地等の不採算地域に於いても運営出来ている。ユニバーサルサービス義務を郵便にだけ課し、預金・簡保については義務付けず努力義務としているが、これでは不採算地域の儲からない窓口ネットワーク会社(郵便局)には預金と保険業務は委託されず先細りすると云われている郵便業務のみになってしまい、たちまち成り立たなくなる。何れ民間金融機関の如く統廃合を進め、地方を中心に郵便局は激減するか、維持しようとすれば当然税金の投入が必要になる。
 現に民営化が実施されたドイツ等は郵便局が半減した。
 「基本方針」では窓口ネットワーク会社(郵便局)・郵便事業会社・郵便預金会社・郵便保険会社に4分社化した後の各事業の採算や事業継続の展望が見えない。

2,350兆の郵貯・簡保の国民資産を金融市場に委ねることは国益に添わない。

 1400兆の個人金融資産の4分の1を占める郵貯・簡保の資金は現在財投機関を通じ政府系金融機関でのお金の貸し出しや、社会福祉・教育・公共事業等を行うことにより受注する側の民間企業にもお金が流れている。あるいは見えざる国民負担と云われる納税義務の免除についても国庫納付義務があり、国鉄再建時は国庫納付義務により1兆円を負担しているというように、国民の為に有益な数々の政策及び事業に使われている。
 また国債の管理政策の観点からみても、560数兆の国債残高の内4分の1を郵政が保有しているが、民営化して資金運用が自由になり、国債の財源として確保できなくなれば金融市場は不安定になる。不安定な状況になれば一気に国債が値崩れし長期金利が急騰、日本の経済は危機的状況にならないとも限らない。

郵貯・簡保は国債の財源として安定的な受け皿であり、必要な社会保障、教育、公共事業等、これら国の為に使われ、我が国の経済を安定的に支えている。
要するに集めたお金を無駄なものに遣うのでなく、有益なものに遣えばいいのであって、お金を集めるのを止めると云うことは国民生活に重大な影響が生まれる。実際、緊縮財政路線で支出を抑えている現政権下に於いても国債の発行は必要。
350兆の膨大な国民資産を昨年12月のアメリカ国務省の郵政民営化を求める対日要求に応え、民間金融機関に流れ込むようにして外資が圧倒的にこれを飲み込んでいった場合、日本経済に与える影響は決定的にマイナスである。

 以上が主な反対理由ですが、私は何が何でも民営化に反対というのではなくて、日本郵政公社は2年前にスタートしたばかりで、民間から招いた生田正治総裁のもとで、日々、自己変革に邁進し、黒字なうえサービス向上も目ざましく、国民からも「よくやっている」「公社のどこが不都合なのか」と高く評価されているところで、最初にも述べた通り、残り2年後の実施状況を見てから「民営化した方が良い」のか「やはり公社のままが良い」のか徹底的に話し合って決めれば良いことです。
 今直ぐ郵便局を解体して何かいいことがあるのか、それぞれの事業が成り立っていくのか、基本方針に添った郵政民営化法案は全く青写真が明確にされていない欠陥法案であり、日本をおかしくしてしまう政策ではダメですよと云うことです。
 それよりも経済は2極分化が進み、治安も悪化、景気対策、テロ対策、社会保障政策、外交課題等に取り組むことが急務と考えます。
 地方を支えている郵便局が残り、日本がちゃんとしているのであれば選挙や除名等いささかも怖くない。政治家として後世に恥じぬよう、歴史に責任を負う立場で信念を貫くつもりであります。

不二の山霧晴れわたり我は起つ 上九の里は夏真っ盛り
今の世は仮の姿と思えども なお憂きことにこの身捧げん

2005年7月29日 亀井 静香

※無断転載を禁ず

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